オフィスづくりは「サッカーコート」に似ている? 働き方改革と仕事環境の関連性とは

ビジネス

公開日:2018/2/16

■オフィスは、共通のルールをみんなで共有する「サッカーコート」

――では、「環境の工夫で経営課題」を解決するというのは、具体的にどういうことなんでしょう?

山下: たとえばオフィスを「サッカーコート」だとイメージしてみてください。そこにルールを知らない人を集めて、さあプレイ開始だよ、といっても一向にゲームが進まないし、ちっとも面白くないですよね。
 なぜならそこには事前に知っておくべき「ルールや作法」があって、身につけたうえで初めて、自然なパスやシュートが出て結果が出るようになるわけです。

 しかし現実のオフィスづくりでは、ふだん紙資料で打合せをしている組織に、ファシリテーション技術の指導なしにいきなり壁一面のホワイトボードを与えてしまうなどの失敗が後を絶ちません。
 みんなの共通ルールや作法を設定して、そうした癖を働き手につけてあげるのがオフィスの役目。具体的には「こういう場合はカフェで情報収集するんだよ」「こういう悩みはオープンに議論するほうがうまくいくよ」といったことですね。

advertisement

――オフィス環境を変える工夫として、個人でもできる取り組みはありますか?

山下: いや、私はあえてオフィスを作るのは経営者の責任といいたい。もちろんボトムアップもひとつの理想なんですけど、現実には部署の利害が相反することも多いですから。経営者かそれに近い立場でないと整理できない場面がでてきます。

 実際、日本でも海外でも優れたオフィスは、経営者かそれに近い立場の人が率先して作りあげています。だからといってワーカーを置き去りにしていいということではありません。価値観が多様化しているいま、ひとつの形を押しつけるのではなく、多くの選択肢を提示するようなオフィスが望ましいですね。

――就職や転職の際にも、どんなオフィスであるかは選択の指針になりそうですね。

山下: 企業のポリシーが良くも悪くも反映される部分なので、どのような価値観をもっているのか、オフィスを見ると大体のイメージがつかめると思います。
 社員に優しい会社を謳っているのに、オフィスを見たら「本当にそうなのか?」と疑ってしまうケースもありますよ(笑)。たとえば食の環境がどれだけ整っているかで、社員の生活へのケアの手厚さが分かりますし、ひとつの指針にはなりますよね。

――では山下さんが考える「悪いオフィス」とはどんなオフィスでしょうか。

山下: ワーカーに問題解決をすべて委ねて環境のあり方を軽視しているオフィスですね。経営課題はどこにあるのかをちゃんと考えていれば、オフィスもそれに沿った形になると思うんです。

 よく会社の組織図のように、デスクで「島」を並べているオフィスがありますよね。あれは部下から上がってきた情報に上長が最後に判子を押す、という情報処理型の作業には適したオフィスなんですが、働き方が多様化した近年では対応しきれない。何も考えずにただデスクを並べているのだったら、ちょっと考え直したほうがいいかもしれません。

■ワークの外に「もうひとつのワーク」を持ってみる

――近年では、インターネットを利用したテレワーク、企業の壁を越えた対話の場であるフューチャーセンターなど、オフィスの境界をゆるめるような動きも出てきました。今後、日本のオフィスはどうなっていくとお考えですか。

山下: こうした動きは加速していくと思います。その呼び方はコワーキングでもフューチャーセンターでも構わないんですが、あり方としては「課題を解決する」よりも、さまざまな活動を通して「課題を探求する」方向に進んでいますね。たとえば副業も組織の境界をゆるめて、働き手自身に課題探求の機会を担ってもらおうという試みと考えられます。

――仕事との付き合い方が変わってきて、戸惑っているという読者も少なくないと思います。岐路に立っている日本の働き手にメッセージをお願いします。

山下: やはり働き手側の盛り上がりがなければ、本当の意味での「改革」は起こらない。個人的には、日本の働き方改革の第一歩は「早く帰れ」じゃなく、「もっと働け」がいいと思うんです。たとえば午後4時で会社を切り上げて、そこからさらに別の会社で働くなどです。ワークとライフが重なっている日本人のスタイルにはフィットしているのではないでしょうか。
 異なるワークに就いてみて、外側から今の自分の仕事を眺めたとき、本当にやりたかったことや効率的な仕事の方法など、新しい発見が生まれてくる。仕事が生きがいなのであれば、別のワークの領域を増やしてそこから俯瞰してみる機会を作ったほうが、働き手の意識改革の第一歩としてうまくいくんじゃないかと思います。
 もちろん育児や介護との両立や5時を過ぎたらもう働かない、でも構わないわけですから、さまざまな選択肢があることは大前提ですね。

取材・文=朝宮運河