経営学者って何を考えてるの? 素朴な疑問に答えるオールマイティな一冊

ビジネス

公開日:2018/2/16

『世界の経営学者はいま何を考えているのか』(入山章栄/英治出版)

 冒頭から「経営学についての三つの勘違い」と題して、著者はいきなり日本でのドラッカー・ブームを否定する。経営学者として絶大な人気を誇り、マンガやアニメにまで取り上げられたドラッカーをだ。「えっ、この人なに言ってるの?」という疑問がむくむくと湧いてくる。

『世界の経営学者はいま何を考えているのか』(入山章栄/英治出版)は気鋭の経営学者である入山章栄氏が、世界の経営学の流れをわかりやすく私たちに届けてくれる。それはいわば“知のフロンティア”の一端だ。

■経営学の本なのに読みやすい、その秘訣はわかりやすい構成

 本書の特徴はその抜群の読みやすさにある。
(1)各章の冒頭でまずその章の目的やメインテーマを明快に述べている。
(2)その後に様々な事例やデータを用いた丁寧な解説が続く。
(3)締めくくりで「まとめ」と題して、その章のおさらいをするといった構成になっている。

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 難解な専門用語を極力避けた平易な文章は、頭にするすると入ってくる。たまに登場する著者の私論が「この人はこの説をこんな風に考えているのか」と素の部分を垣間見ることができて、非常におもしろい。

 本書の内容からは脱線するが、〈注釈〉が同じページ内にあるのも読みやすい。ビジネス書では注釈を巻末などにまとめている書籍が多いが、もともと難解な本なのに、新しい言葉を知ろうとページを行ったり来たりするのはストレスに感じるものだ。
 そのような面倒がなくスムーズに読み進めることができるのは心地よい。

■堅い学問の話題を、実務に活かすヒントが盛りだくさん

「経営の現場にいる人にダイレクトに効く話」と「アカデミックな世界の話」とが両方盛り込まれていて、そのバランスがちょうどよい。
 過去実際に事業会社で働いた経験のある著者だからこそ、学問の堅い話に偏りすぎることなく、「知識や学問が、実務にどう関係してくるのか」という素朴な好奇心への気配りが行き届いている。

■本書を読むべきは、今こんなことを考えている人――

第6章「『見せかけの経営効果』にだまされないためには」
第7章「イノベーションに求められる『両利きの経営とは』」
第12章「不確実性の時代に事業計画はどう立てるべきか」

 上記の部分は、今会社の仕事で経営企画、事業戦略、新規事業開発といった業務に携わっている人は必読だろう。

 はたまた「うちの会社に出入りしているコンサルタントは、プレゼンはすごいんだけど、なんだか素直に頷けないんだよな…」と疑問に思っている人、リスクを避けたがる上司を相手に新企画や新規プロジェクトのプレゼンをしなくてはいけない人、またゆくゆくは自分が経営に関わりたいと考えている人にとっても、興味深い内容だろう。

第10章「日本人は本当に集団主義なのか、それはビジネスではプラスなのか」
第11章「アントレプレナーシップ活動が国際化しつつあるのはなぜか」

 後半部のこちらは、様々な国籍の人々と一緒に働いている人、将来海外で働きたいと希望する人にとって大いに参考になるだろう内容だ。

 本書の中で参考にしている論文は、注釈にタイトル、執筆者名、掲載誌が明記されており、ベースとなった論文を実際に読んでみたい人は直接アクセスすることも可能だ。自分が興味を持ったジャンルについて、より広く深く知ることができる入り口にもなる。

 肩肘張らずに読める経営学のガイドとして、日々の仕事へのヒントが欲しい人、知的探究心を満足させたい人に、ぜひお薦めしたい一冊である。

文=滝川有紀