退職した老刑事が殺人鬼を追う…海外ドラマ『ミスター・メルセデス』原作はスティーヴン・キングが初めて挑む正攻法のミステリー
公開日:2018/2/26
『セル』『IT/イット “それ”が見えたら、終わり。』『ダークタワー』、と映画化が相次ぎ、日々忙しくしているスティーヴン・キングファンの皆さんに朗報だ。あの『ミスター・メルセデス』がドラマ化され、日本での放映がスタートする。
退職刑事のビル・ホッジスを演じるのは、「ハリー・ポッター」シリーズなどでおなじみのブレンダン・グリーソン。デヴィッド・E・ケリーらが脚本を手がけ、『LOST』のジャック・ベンダーらが監督を務めるという。日本での放映はスターチャンネルで、2月27日スタート。公式サイトにあがっているプロモーション動画を見ると、かなり期待できそうだ。
その原作『ミスター・メルセデス』(スティーヴン・キング:著、白石 朗:訳/文藝春秋)は、スティーヴン・キングが2014年に発表した長編小説である。ホラーの帝王として長年キャリアを築いてきたキングが、かねてから愛読してきたミステリーの世界に初めて挑んだこの作品は、本国アメリカではベストセラーに。しかも翌15年にはミステリー界最高の栄誉である、エドガー賞最優秀長編賞に輝いた。たとえるなら第一打席の初球でいきなり場外ホームランをかっ飛ばしてみせたようなもの。キングという作家がいかに小説の神様に愛されているか、あらためて実感させられるような出来事だった。
物語の主人公は退職刑事ビル・ホッジス。半年前に警察を辞めた彼は、妻子の去っていった家で、ひとり平日の昼間からテレビを眺め、アルコールに溺れる生活を送っていた。そんなある日、一通の手紙が彼のもとに届く。差出人は「メルセデス・キラー」。それは数年前、高級車で群衆に突っこみ、多くの命を奪ったまま逃走した殺人犯の名だ。
ホッジスの中で静かに燃えあがる刑事魂。やり残した仕事にケリをつけるため、彼は独自の捜査を開始する。ホッジスを側面から支えるのは、パソコンやネットに詳しい黒人青年ジェロームと中年女性のホリー。奇妙な友情で結ばれたチームが強大な敵に立ち向かう、というキングお得意のパターンに沿って、ホッジスとメルセデス・キラーのすさまじい攻防戦が描かれてゆく――。
ここまで読んだ段階で、大方のキングファンなら「間違いないな」と思われたことだろう。その通り、これは「間違いないやつ」である。キャラクター造型、会話のうまさ、ストーリーテリング、手に汗握るクライマックスと結末の余韻。どれをとっても一級品で、上下巻700ページを超える長編ながらまったく読者を飽きさせない。個人的にはここ数作、キングがまたまたレベルアップを遂げたような気がしてならない。とにかく始まりから終わりまで面白い。
なお、退職刑事ビル・ホッジスものは3部作となっており、第2作の『ファインダーズ・キーパーズ』は文藝春秋より刊行済み。完結編『End of Watch』も近く翻訳されるはずなので、首を長くして待ちたい。ドラマ版もセカンドシリーズが決定しているというから、しばらくはこのシリーズが話題を集めることになりそうだ。
本作はキングにしては珍しく、超自然要素のないストレートなミステリーなので、怖いものが苦手という人にも自信を持っておすすめできる。スティーヴン・キングは現代エンターテインメント界の大山脈だ。初心者にも登りやすい『ミスター・メルセデス』をきっかけに、ずんずんその深みに分け入ってもらいたい。
文=朝宮運河
■ドラマ情報
BS10 スターチャンネル『ミスター・メルセデス』
【STAR1 プレミアム】2/27(⽕)より毎週⽕曜よる11:00 ほか ※2/27(⽕)は第1話無料放送
【STAR3 吹替専門】3/2(金)より毎週金曜よる11:30 ほか ※3/2(金)は第1話無料放送
製作総指揮・脚本:デヴィッド・E・ケリー (『ザ・プラクティス ボストン弁護士ファイル』、『ビッグ・リトル・ライズ』)、スティーヴン・キング、ジャック・ベンダー
脚 本:デニス・ルヘイン(『ミスティック・リバー』、『シャッター・アイランド』)
監 督:ジャック・ベンダー (『LOST』、『アンダー・ザ・ドーム』)ほか
出 演:ブレンダン・グリーソン (『ハリー・ポッター』シリーズ)、ハリー・トレッダウェイ (『ナイトメア~血塗られた秘密~』)、ケリー・リンチ (『ドラッグストア・カウボーイ』)、メアリー=ルイーズ・パーカー (『RED/レッド』シリーズ)ほか
公式サイト:https://www.star-ch.jp/drama/mr-mercedes/