利益や売上げしか考えない社長は淘汰される? 会社経営の真の指針とは
更新日:2018/2/20
会社の活動はボランティアではない――私が社会人1 年目に指導してくれた先輩、上司から耳にタコができるほど言われた。
当時は進学塾に勤めていたため、新規入塾者は何人いるか、目標達成のためにはあと何人の集客が必要か、といった話がいつも会議のメインの話題。状況が芳しくない校舎(支店)は全社員の前で叱責された。利益が上がらなければ会社は社員に給料を支払うことができない。自分の生活を守るためには、利益を確保し、会社を発展させなければならない、と私も当然のように考えていた。
だが、近年企業を評価する基準は刻々と変化している。自分の会社のことしか考えていないリーダーは評価されない。そこで 紹介する本が、『利益や売上げばかり考える人は、なぜ失敗してしまうのか』(紺野登、目的工学研究所/ダイヤモンド社)。これまでの企業の価値は従業員数や年間利益、安定性で測られていた。
しかしこれからの価値基準は、企業の行う「CSR(corporate social responsibility)」も大事な指標になるという。
■CSR活動とは? ただの綺麗ごとではない真の目的
しばしば耳にするCSRとは、日本語に直訳すると“企業の社会的責任”。要するに、自社や株主の利益だけでなく、企業活動に関わる顧客や従業員、地域住民などに対しても貢献していかなければいけないという考え方だ。その貢献は、環境保全や、市民向けタブレット教室の開催など多岐にわたる。
利益や売上だけを求めてもなかなか結果を残せなくなった昨今、本書は新しい視点を教えてくれる。本書では、利益や売上を得るための直接的な“手段”ではなく、その先にあるべき企業活動の正しい“目的(パーパス)”について多くの章を割いて述べている。これらはどれも、CSR(企業の社会的責任)にもつながる根幹となる考え方だ。
■「目標」と「目的」の違い、説明できますか?
本書の冒頭で引用されているのは、
「利益を追求することは企業の目的ではない」
という日本で社会現象にもなった経営学者・ドラッカーの言葉。企業の目的は簡単にいえば、「事業を通して世の中をより良くしていくこと」だという。
本書では様々な例が紹介されているが、一例として、アメリカのコンピューターエンジニアであるダグラス・エンゲルバート氏を紹介したい。
彼はふと、あることを考えるようになる。それは「自分のキャリアにおいて、人類のためになることをしよう」ということ。それからは人に笑われながらも、本を読み、勉強をし、自分に何ができるかを考え続けた。そんな葛藤の末にたどり着いた彼の発明品が、今では当たり前のように使われているパソコンのマウス。
その後のマウスの普及は、皆が知っての通り。「人類のためになること」を追い求め、それを実現した彼の偉業には見習うべきところが多い。
このように、社会的に意義がある目的(パーパス)を持つことは非常に大切だ。しかし、個人の力だけで大きな成功を収めるのは難しい。だからこそ、企業として持続できる利潤を生みだすことができる「目的」というコンセプト に重きを置いたビジネススタイルが世界的に求められており、それは今後ますます主流になるという。
本書では、そのような「目的」に基づくマネジメントのヒントと、その実践を説く「目的工学」という手法についても、わかりやすく案内している。
また著者は「目標」と「目的」は異なると解説する。目前にある売上や契約数などの数値目標を達成することと、より先まで見通した目的や社会的意義を達成することとが、これまで は混同されがちだった。しかし、「目的」にもっとフォーカスすることで、 なんとなく日々の業務をこなしてきた人も減るのではないだろうか。そういう点では、「目的」を「ビジョン」と言い換えても理解しやすいだろう。
とはいえ、いかに立派な「目的」を掲げていても、それが明らかに実現不可能であったり、ただのお題目になり果ててしまったりするケースもあるかもしれない。
目的重視が発展してきた背景には、自分だけが良ければいいという利己的なスタンスに対する批判もある。これからは、従業員だけでなく顧客や投資家もこの点に留意しながら企業の活動を見守る必要がありそうだ。
文=冴島友貴
●著者・紺野登先生のインタビュー記事は【こちら】