アニメ業界は海賊版にどう対抗? 吉田尚記アナ、アニプレックス執行役員に聞く!
公開日:2018/2/23
■世界各地にアニメのファンコミュニティを確立
吉田:昔は海賊版でしか見ることのできなかった日本のアニメが、正規の視聴方法を増やしたことで世界中にファンが生まれて、それは今後も広がっていくと。
後藤:それはもう断言していいと思いますよ。現在、アニメビジネスで海外マーケットに対する期待は相当高まっています。
吉田:そういえばエチオピアでアニメのファンイベントが開催されたっていう話を聞いたことがありますよ。もちろん公式ではないと思いますけれど。
桶田:映像という、世界中どこでも通じる普遍性がアニメの特性ですよね。日本のマンガも海外にファンがいてさらに広がっていくポテンシャルはありますが、マンガにはコマ割や漫符、擬音などマンガならではの文法があり、すぐに誰でも読めるわけではありません。それに比べてアニメは映像、映画という普遍的な表現方法の上に成り立っているメディアですから、基本的に誰が見てもすぐに理解できるというのは大きな強みだと思います。
吉田:確かに海外では『鋼の錬金術師』の原作マンガを読んでいる人よりもアニメ版を見ている人のほうが多いでしょうね。
後藤:国や人種に関係なく、アニメに惹かれる人はどこにでも一定数いるのではないでしょうか。日本も同じだと思いますが、どこの国でも学校のクラスの何人かに『Fate』や『ソードアート・オンライン』や『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』など、特定の作品に強く共鳴する人がきっといると思うんです。海外において、そういう人たちが正規放送・配信で自然と作品を“発見”し、「昨日こんなアニメを見たんだ」なんて友達に話して、新たにアニメファンのコミュニティが膨らんでいく。
ですから、世界中にいるはずのアニメ好きの人に気付いてもらう可能性を高めていくために正規の視聴アクセス方法を世界規模で広げていくことが大切なのです。そして、同時に各国でグッズ販売やイベント開催などで作品をさらに盛り上げていく。その“横”と“縦”の両軸でまんべんなく広く届けていくことがお客様へのサービスの向上と同時に一番の啓蒙活動になると考えています。
吉田:そうやって日本からIPコンテンツを世界に売り出して市場を作っていく事業って、これまで前例がないものですよね。
後藤:そうですね。日本のIPコンテンツの海外発信が仕組みやビジネスとして成立しているのは現状ではアニメだけかもしれません。ただ、それも2009年ぐらいからですから、まだ始まったばかりともいえます。
吉田:ふと思ったんですが、世界各地の“アニメ未開の地”にファンを作っていくって、なんだか宣教師みたいですよね。さっきの話に出てきたどれだけ精巧でも偽物より本物を求めるファンの気持ちもちょっと宗教の信仰心と近いものを感じますし。
後藤:作品の浸透度が高くなると、お客様のほうでも海賊版ではなくて、正規版を求めるようになるのだと思います。お客様との接点を作って、本物がほしいという気持ちを後押しすることも私たちの重要な仕事だと思います。
吉田:海賊版ではなくて本物を求める気持ちって、モラルや愛着というよりもファンとしての本能に近いものなのかなという気がします。
後藤:やはりファンとしての“作品愛”が大切な鍵ではないでしょうか。海賊版で作品を消費するのではなく、感動する作品に対する愛情を覚え、それを生み出した作り手を応援したくなる。アニメイベントやコンベンションも通じそのようなクリエイタ―とファンの出会いを作り続けたいと思います。
吉田:さっきの宣教師のたとえに戻すと、ザビエルが宣教して日本に天草四郎が出てきたみたいに、世界各地に日本アニメを広めていくことで、それぞれローカルの天草四郎的なアニメ信奉者が出てくるわけですね(笑)。
後藤:それが理想的な形ですよね。私たち製作・販売サイドとローカルのパートナー、ファンたちが作ったコミュニティが一体となってアニメを盛り上げて、応援していくことが、ビジネスとしての展開はもちろん、海賊版に対抗するための一番の方法なんだと思います。
取材・文=橋富政彦 撮影=内海裕之