身近にある経済はどんな仕組み? 事例と解説で読むミクロ経済の入門書
公開日:2018/2/22
「コンビニでジュースやお弁当を買う」
「会社で働いて給料をもらう」
「老後に備えて生命保険に加入する」
どれも生活をしていれば、当たり前の行動。しかし、これらは “経済活動”の一環、という言い方をしただけで身構えてしまう人がいるのでは?
もうすぐ大学生、あるいは社会人になるから経済くらい理解しなければいけない。テレビの経済ニュースを見て「ふむふむ、なるほど。日経平均の値動きは……」と呟けねばいけない。だから、経済の勉強を始めてみようとした ものの挫折した、という人は少なくないはず。
とはいえ、冒頭で挙げた例にもある通り、難しいけれども、経済は身近な存在。やはり基礎から勉強し直したい。そんな方におススメしたいのが『スタンフォード大学で一番人気の経済学入門 ミクロ編』(ティモシー・テイラー:著、高橋璃子:訳、池上彰:監訳/かんき出版)だ。
著者はスタンフォード大学で「学生が選ぶ最優秀講義賞」、ミネソタ大学・大学院で「年間ベスト講師賞」を受賞という輝かしい経歴をもつ、ティモシー・テイラー氏。監訳は、わかりやすいニュース解説でお馴染みの池上彰氏が務めている。そのため、経済という難しい学問でありながら、とてもすっきり読みやすい印象だ。
経済学は個人・企業・政府の視点で経済を見る「ミクロ経済」と経済全体の動きを視野に入れた「マクロ経済」が存在する。今回 紹介する書籍は「ミクロ経済」について。つまり、冒頭のモノを買ったり、企業から給与をもらったり、保険に加入したり、我々の目線に近い経済活動の仕組みについて解説してくれるということだ。本稿では、本書の内容を一部紹介したい。
取っつきにくい経済学。その要因には“経済学らしい独特の考え方”があるかもしれない。本書では、初めに経済学における4つの考え方についてわかりやすく解説している。
【1】ものごとにはトレードオフがある
トレードオフとは、何かを重視すると別の何かが疎かになってしまうという考え方。例えば、仕事に重きを置けば、どうしても家庭や学生時代の友達との関係が疎かになってしまう、ということだ。
経済においては、もっと広い範囲で影響が及ぶ。税金の引き下げや工場の新たな設備投資など、一見すれば良いことかもしれない。しかし、不利益を被る人は多かれ少なかれ存在するもの。それを想像し、より多くの人が利益を得られるようにするにはどうすればよいかを考えるのが経済学の考え方だ。
【2】利己的な行動が社会の秩序をつくる
売上を上げるために、より良い製品を作る。減税のために排 ガスが少ない車を開発して利益を上げる。このように利益を追求することで、消費者や広く社会に対しても利益をもたらすことができる。
しかし、利益を重視するため、消費者を騙す、有害物質をそのまま排出するといったケースもあり、決して万能な考え方ではない。けれども、企業や個人が利益追求を考えれば、良い影響を与えるというのが経済学の基本的な考えとのことだ。
【3】あらゆるコストは機会費用である
Aを選べば、Bは選ばない。このように“選ばれなかったもの”を「機会費用」と呼ぶ。この考え方は時間も対象となる。例えば、フルタイムで大学に通うとなると、学費はもちろんのこと、仕事ができたであろうその分の時間も犠牲にしている。このようなお金・時間を含めてコストと捉える考え方が経済学の基本ということだ。
【4】価格を決めるのは生産者ではなく市場
お金をたくさん儲けたい。だから、賃貸住宅の家賃を5万円から10万円に引き上げる。100円の商品を500円にする。すると、当然ながら賃貸住宅に住む多くの住人は引っ越してしまうだろうし、消費者は高くなった商品の代わりになる安い商品を探すことになるだろう。つまり、値段の決定権は100%生産者にあるのではなく、市場(相場)に合わせた値段設定になるということ。
以上の要素に加えて、「需要と供給」 「価格弾力性」など経済学の基礎知識をわかりやすく紹介。その後、商品やサービスを扱う「財市場」、個人が企業に労働を提供する「労働市場」、保険や株といった資本を扱う「資本市場」の詳細について。さらに応用編として貧困・格差・政治といった問題も解説している。
本書は取っつきにくい経済をわかりやすく紹介してくれているとはいえ、やはり目を通すだけで頭に入っていくほど簡単ではない 。おススメの読み方は、パラパラ読むのではなく、1日1章と決め、何度も繰り返し読むこと。そうすれば、経済学の考え方が自然と自分の知識として身についていくだろう。
文=冴島友貴