良い監督=理想の上司? サッカー監督にならうマネジメント術
公開日:2018/2/23
いよいよJリーグの新シーズンが開幕する。サッカーの日本代表戦などがあると、会社や学校でもあちこちで、「にわか監督(と呼ばれる素人)」たちがチームの戦いぶり、とりわけ監督の采配について熱く議論しているのを聞いたことはないだろうか? 監督とは、勝っても負けても批判にさらされる宿命にある仕事だ。
監督の仕事の進め方には個性が出るものだ。たとえばJリーグ・ジェフ千葉を2017年から指揮しているファン・エスナイデル監督は、選手の食事メニューからカレーを除いたという。アスリートにとって食べ物は必要なものを必要なだけ摂るべきという考えによるものだそうだが、管理される側にとっては正直なところ、人気メニューの我慢は厳しそう である。
それぞれの監督の個性的なマネジメントスタイルを、サッカーライターとして活躍する著者が紹介するのが、本書『監督たちの流儀』(西部謙司/内外出版社)だ。
チームを勝利へ導くため、自分なりの考えにもとづき、選手たちに適切な指示を与え、マネジメントする。
選手を部下と置き換えてみれば、監督の仕事は、組織における「管理職」とあまり変わらない(何かと批判されがちという点でも)。もしこの監督が自分の上司だったら…という観点でこの本を読んでみるのもおもしろいだろう。
■サムライブルーの指揮官たちは、上司としては何点だろう?
サッカー・ファンでなくとも多くの人に馴染みのある日本代表の歴代監督については、本書でも多くのページが割かれている。
・イビチャ・オシム監督
追いつきようがない世界の最先端トレンドを追うのではなく、日本ならではの特徴を生かし、格上のチームを自分たちのペースに引きずり込むという選択肢を日本代表へ提示したのが、オシム監督。2006年の就任後、脳梗塞のため1年半で退任してしまったが、選手自らに考えさせて能力を引き出し、成長を促すその手法がもし続いていたら、日本代表はどうなっていただろう。歴史に「if」はないというが、サッカー・ファンにとっては興味深い「if」だ。
・岡田武史監督
オシム監督の後を引き継いだ2度目の監督期には、日本人の長所短所を明確に意識し、日本らしさを先鋭化させた攻撃型チームをつくろうとしていた。しかし、2010年南アフリカワールドカップ直前に連敗したことで、守備重視の戦術へと舵を切ってしまう(結果としては、日本はベスト16に進出した)。理想を見つつも、目先の現実に合わせてあっさり物事に見切りをつけるタイプと本書では述べられている。
・ヴァイッド・ハリルホジッチ監督
請け負った仕事をなるべく良い成績で終えることが全て、という究極の現実主義者だという。「日本化」も「美しいサッカー」も関係ない、勝利のためにその時々の相手に合わせた戦術を選択する。日本サッカーの発展という大きな流れでは疑問符がつくかもしれないが、それは監督の責任というより、長期的な強化方針を示さず、監督交代ごとにその個性に引っ張られる日本サッカー協会の課題だろうと著者は指摘する。
■あなたが上司にするなら、どの監督を選ぶ?
本書では、日本代表以外の監督についてもさまざまな観点から紹介されている。
元は天才選手型だった監督によくあるケースとして、説明をしようにも「ガーッと走ってブワーン!」「気持ち良くドーン!」などやたらと擬態語ばかりが多く、本人の感覚が伝わるように言語化できないという話はおもしろ い。実際に何人かの監督の顔を思い浮かべる読者も多いのではないだろうか。
その元天才選手型の一人、風間八宏監督は、例外的に説明できる言葉をも つ人だという。オリジナリティのある戦術によって川崎フロンターレをJリーグの強豪に押し上げたが、在任中にタイトルを手にすることはできなかった。その後を継いだ鬼木達(おにき・とおる)監督は、2017年に就任1年目にして優勝の栄冠を手にした。背景には、風間前監督のもと でコーチを務めていた鬼木がそのスタイルを理解し引き継いだ上で、少し「緩める」方向に微調整したことがあったという。理想へ向かって前傾しすぎる創業者と、そこに手を加えて完成させる後継者の関係のようだ。
やはり監督と企業の管理職には、共通性が多くある。さまざまな個性をもつ監督=われわれの上司たち。
さて、あなたはどんな監督のもとで働きたいと考えるだろうか。
文=齋藤詠月