自分の心に、正直に。なぜラックライフの歌は心に響くのか――ラックライフ・PONインタビュー
公開日:2018/2/28
ラックライフというバンドの音楽には、聴き手の理解が追いつかないひとりよがりなギミックも、やたらと長くて覚えづらい曲名も、一切存在しない。そこにあるのは、心地よく浸透してくるグッドメロディと、誰もが経験したことがありそうな、日常における感情の機微を描いた歌詞だ。すべての楽曲の作詞作曲を担当するボーカル・ギターのPONは、インタビュー中に「僕、感覚がすごく一般人なんです(笑)」と述べていたが、だからこそラックライフの正直な楽曲は、ストレートに心に届いてくる。結成は、2005年。現在のバンド名になって、今年で10周年。メンバー4人は高校の同級生で、誰ひとり欠けることなく活動を続けてきたラックライフとは、どのようなバンドなのか。3月3日公開の映画『文豪ストレイドッグス DEAD APPLE(デッドアップル)』のエンディング主題歌、『僕ら』(2月28日リリース)の制作エピソードを端緒に、ラックライフの現在と未来について、PONに語ってもらった。
“僕ら”の歌詞は、お客さんの気持ちを感じたことで、その日のうちに書けた
――まずは、新曲『僕ら』が生まれた背景についてお話を聞いていきたいです。
PON:この曲は、『文豪ストレイドッグス』の映画のあらすじを読ませていただいて感じたことを、自分に置き換えて書きました。みんな、日々戦っていて――自分もそうですけど――世の中や自分の過去、自分自身と戦いながら生きてるなあって思いながら書きましたね。「映画の主題歌をGRANRODEOとラックライフがやります」って発表されて、ドキドキしながらTwitterに張りついて、ひたすら2時間くらい眺めてたんですけど(笑)、予想以上にラックライフのファンの方と、『文豪ストレイドッグス』のファンの方が喜んでくれて、すごく感動して。曲作りって孤独で、ひとりで悶々としながらギター片手にやる作業なので、ひとりでやってる感がすごくあるんですよ。でも、みんなの反応を見て、「こんなにも楽しみにしてくれてる人がいる、応援してくれてる人たちがいるんやなあ」って感じて心強かったし、それが見える世の中やからこそ2番の歌詞が書けて。お客さんの気持ちをすごく感じたし、「ひとりでやってるつもりやったけど、ひとりじゃない気がするなあ」って思って、すごくパワーをもらいましたね。
――まさに、今の話と“僕ら”の歌詞を読んでここ重要だな、と感じたポイントが一緒で。《一人じゃないなら それだけで高く 飛べる気がしてる》。この曲の一番いいところって、この歌詞だと思います。
PON:ありがとうございます。僕もそう思います(笑)。結局、やっぱりひとりじゃ何もできないタイプというか、自分のために頑張れない、しんどいことは自分のためだけでは乗り越えられないタイプなんですよ。けど、乗り越えた先に誰かが喜んでくれるなら「一丁やろかい」っていう。そこがすごく出たと思います。やっぱり、何もなしに書き始めるよりも、自分の心に何か衝撃がバーンと来て生まれる歌詞のほうが鮮度があるというか、リアリティがある気がしていて。僕、感覚がすごく一般人なんですけど(笑)、「聴いてくれる人に寄り添う曲を書きたい」って昔から思ってて、人の気持ちになって歌を作ってきて、自分自身を思いっ切り歌うほうが誰かの気持ちに一番近いことになるんやって気づいた時期があって。そこからは、自分の見た景色や感じたことを歌にするようになって、自分の中で歌を書くときの正解にたどり着いた感じはしてます。
――なるほど。
PON:『僕ら』の歌詞も、2番が書けなくなっちゃったんですよ。「1番で全部言っちゃったなあ」と思って。自分がテーマとして掲げてたものが1番の歌詞で成立してしまったときに「あれ? この先に足すとすごく薄っぺらいことを言ってしまうんじゃないだろうか」って思うんですよね。でも、『僕ら』の歌詞はTwitterを見てお客さんの気持ちを感じたことで、その日のうちに書けた感じでした。
――だから、1番はある意味「PONの歌」であり、作品から受け取ったものが入った歌詞なんですよね。で、2番は人が書かせてくれた歌詞、というか。さらに言うなら、だから「僕ら」なんだっていう。そのとき「僕ら」にはあなたたちも含まれてるんですよっていうメッセージでもある。
PON:うんうん、ほんまにそうやと思います。2番を書き終えるまでは、タイトルが“僕ら”になるなんて全然思ってなかったし。でも最後まで歌詞を書き終えて、「“僕ら”以外ないんやけど」ってなって。
――この曲の一番の驚きってそこなんですよね。「“僕ら”ってなんだ?」っていう話で。
PON:うんうん、「誰やねん」って感じですよね。「どこまでやねん」みたいな。
――そうそう。実際、この言葉を曲のタイトルに持ってくるって、すごく勇気が要ると思うんですよ。あまりにも想像できる範囲が広いじゃないですか。その上、映像作品を背負ってもいるわけで。
PON:そうですね。でも、迷いはなかったです。タイトル決めるの、苦手なんですよ。いつもはメンバー4人揃って、歌詞を読みながら「なんの曲やと思う?」って連想ゲームをしたりして決めるんですけど、今回は言葉の強さとインパクトありきで、曲の意味を全部汲んでくれる言葉――「“僕ら”以外何があるよ?」みたいなドヤ感でいきました(笑)。
――(笑)曲を受け取ったメンバーの反応はどうでした?
PON:ウチ、いつも無反応なんです(笑)。「まあまあ、やろか」みたいな。タイトルを考えてるときに再確認して、「これってこういうときの歌やんな?」ってメンバーが訊いてくれて、「そうやで」って言って、曲に対するディスカッションは終わりです(笑)。
――(笑)シンプルでいいですよね。変なこだわりを持った瞬間に、やたら長いバンド名とか、何が言いたいのかよくわからない曲が生まれたりするけど、ラックライフはシンプルにいてほしいなあ、という感じがします。
PON:そうですね。そもそも、ラックライフってアホみたいな名前ですもんね(笑)。
――(笑)ラックライフというバンド名は、今やってる音楽性とすごく関わってくる気がするんですけども。もともとラックライフって、自分たちが楽しいことを追求するバンドだったんじゃないですか。
PON:はい、そうです。
――自分たちが楽しいことが何よりも大事だったんだけど、それを誰かが楽しんでくれたらもっとハッピーだよねっていうことに気づいた。で、ラックライフの音楽が誰かの心を動かすことに対して自覚的になってきているのが今なんじゃないか、という。
PON:100点です(笑)。その通りですね。最初は、高校のときにほんまに目立ちたいだけで今のメンバーでバンドを始めて、それが13年くらい前なんですけど。目立ちたくって、モテたくって、人気者になりたいっていうシンプルな理由で始めて、地元の高槻ラズベリーっていうライブハウスでいろんな人との出会いを繰り返していくうちに「うお~、奥が深い!」「歌って面白いなあ」って思い始めて。そこから自分たちで曲を作るようになって、思ってることを歌にする面白さに気づいて。全曲オリジナルになって、方向性が決まってきたときに、「真面目にバンドやるんやったらバンド名変えや」って言われて。最初「マキシム☆とまと」っていう名前だったんですけど、みんなで考えて「ラックライフ」になって。
――たぶん、マキシム☆とまとは自分たちのための歌だったんですよね。でも今は、誰かのための歌になってるんだなっていう感じがします。
PON:そうですね。もう自分だけの歌は歌われへんくなった、というか。「自分ひとりの歌って、どうやって歌うんやろう?」って感じですね。いろんな人と一緒に生きてるし、自分が何を思ったところで誰かと接してるんじゃないかなって。「寂しいなあ」って思うのも誰かがいたから起こる感情やし、ひとりでいてもたぶん何の感情も出てきぃへんのやろなあって思っていて。だから、絶対誰かを思い浮かべながら曲を書いてる気がします。昔の自分の曲を聴いても、「人好きやなあ、こいつ」って思うんですよ。だから、自分の曲に嫌いな曲がないんです。「今は恥ずかしくて歌えませ~ん」「この曲、思ってることと全然違いま~す」みたいな曲は、1曲もない。「なんて正直に作ってきたんだろう?」って自分でも思うし、恥ずかしいくらいですね(笑)。昔から曲は手紙やと思いながら書いてきて、それはずっと変わらないけど、具現化する能力がついてきたんかなあって思います。だから、タイアップもほんまにたくさんさせてもらってますけど、アニメのことだけを考えて作った曲はないんですよ。もちろん作品のことを汲んで、「自分があのとき思ってた気持ちとリンクするな」って重なるところを探します。『文豪ストレイドッグス』だったら、すごくもがきながら戦って、ちょっとずつでも前を向いていくお話だと思ってるんですけど、それって自分が音楽を一生懸命もがきながらやっていくこととすごく似てるなあって思っていて。空想だけで曲を書くのは得意じゃないし、自分がほんまにバーンって思ったことじゃないと歌にできないんですけど、これまでもこういうスタイルでやらせてもらって、『文豪』の制作スタッフさんたちも「いいね!」って言ってくれるので、すごくありがたい作品です。
――自分がやりたいことをやって人に受け入れてもらうって、けっこう難しいことじゃないですか。でも今ラックライフの音楽は、ちゃんと受け取る人がいる。そのあり方って、とてもいいと思いますよ。
PON:でも、欲を言うなら、ほんまに自分の好きなようにやって、全員好きになってほしいってほんまに思ってます。みんなに好かれたい(笑)。
――(笑)「好かれたい」っていう欲望は薄まるのではなく、むしろ強くなっていってる感じ?
PON:強くなってると思います。「全人類に好かれたいなあ」ってほんまに思ってて(笑)。昔から全員仲良しがいい、みたいな学級委員タイプで、クラスで端っこにいる人のところに行って一緒にメシ食ったりしてたんですけど―。「みんながみんなハッピーになる方法はないものか」、みたいな。世界がディズニーランドになればいいな、と思ってるんですよ、けっこうマジに(笑)。最初は、自分の知ってる人たちだけハッピーやったらいいかなって思ってたんですけど、「いや、そうじゃないな、きっと」って思って。たとえば、「なんで近所の人と挨拶せえへんのやろう?」とか思うんですよね。関西だと、けっこうそこがゆるくて。僕、川で曲作りするんですけど、追い込まれてるときは毎日のようにめちゃめちゃ厚着してアコギを持って川に行って。それをやってると、3日目くらいでランニングしてるおっちゃんと挨拶が始まるんです。最初はみんな様子を窺いながら「若い子がなんかやってんな」みたいな感じで通り過ぎていくんですけど、3日連続で必死にやってると――朝4時くらいですよ? 薄暗~い中で「おはよう。今日も頑張ってんなあ」みたいな(笑)。でもそういうのって、実はすごくパワーになるんですよね。声を発したら元気になるし、人としゃべるとやっぱり元気になるんですよね。
楽しいことが好きで、誰かに喜んでもらうことが好きで、それをガソリンにして走れるところはずっと変わってない
――今年、ラックライフになって10周年なんですよね。
PON:はい。マキシム☆とまとが消滅して、記念すべき10周年です(笑)。
――(笑)年齢的にも30歳を迎える節目なわけですけど、音楽全般に対してどう向き合っていきたいと考えてますか。
PON:ほんとに飽きないですねえ。楽しいからやってるし、楽しくなかったら余裕でやめてます。だって、曲作るのしんどいもん(笑)。曲作りのときの苦しみなんて、「もう二度と味わいたくない」って毎回思ってますから。曲を作るのは全然得意じゃないし、「うっわ~~!」って言いながら作って、ようやく「1曲あがりました!」みたいなタイプなので。だから、しんどいが上回ったら、普通にやめると思います。でも、楽しいんですよね。待ってくれてる人もいるし。でも結局、いろんなことで苦しんでるときに、曲はできるんですよ。悲しみに手を延ばして、曲にしていくのはイヤやなあ、みたいな歌詞とか、忘れたいことをわざわざ思い出して曲にしていく作業ってほんま地獄みたいな作業やけど、そうやって生み出した曲を誰かが「いいね」って言ってくれたら、それだけで報われる。だから、面白い職業やなって思います。たとえば、誰かが死んでしまったとして、「あいつが生きたことをちゃんと歌にしたいなあ」って思いながら歌にしたりするけど、その記憶ってどうしても日常生活の中で薄れていくじゃないですか。「あのときすごい悲しくて、雨が降ってて」とか、そういうシーンを夜中に思い出しながら歌にしていく作業はしんどいですけど、それで自分の中でスッキリする部分もあるし、誰かが自分の経験と重ねて、他の誰かを思い出して泣けたらいいなあ、楽しかったことを思い出して笑えたらいいなあって思いながら曲を作るのは、すごくやりがいがあります。自分の出来事を歌にして、それを聴いてくれた人が自分に当てはめて聴いてくれて、笑ったり泣いたりしてくれる。そんなことって他にないんですよね。自分の話をして、「その気持ちわかるで」って涙を流しながら聴いてもらえたりするのはすごく嬉しいし、救われた気持ちになれるし、シンガーソングライターの一番の幸せでもあって。それはメンバーにも感じられない自分だけのやりがいだなって思いながら、いつも戦ってます。
――10周年の先にあるラックライフの未来に、どんなことを期待してますか。
PON:「このキャラクターとテンションと気持ちで、どこまで行けんのやろう?」っていうのはすごく楽しみですね。どこまでしょうもないこと言って、アホみたいに笑ってられるかなって思います。変わらないでいたいって思うけど、それって進歩がないってことやから、変わりながら変わらないでいたいんですよね。たとえば10年後、40歳になったときに、めちゃめちゃデカいところ、たとえば大坂城ホールでしょうもないことパーンって言って、誰も笑ってないのに俺だけ爆笑してて、イコちゃん(ギターのikoma)がツッコんでくれる、みたいなシーンがちゃんとできるかなあっていう。自分たちがキャッキャしながら、楽しいことを具現化していきたいなあって思ってます。俺、たぶん19歳の頃とあんまり変わってないんですよ(笑)。もちろん、大人にはなってますけど、楽しいことが好きで、誰かに喜んでもらうことが好きで、それをガソリンにして走れるところはずっと変わってない。そういうところが変わらないまま、自分たちの、自分の心を歌にして、どれくらいの人たちに届いてるやろうなあ?っていうことが楽しみです。
取材・文=清水大輔