凡人が天才に勝つための思考プロセス。なぜ体力B判定でも日本代表で活躍できたのか?

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公開日:2018/2/27

『「一瞬で決断できる」シンプル思考』(遠藤保仁/KADOKAWA)

 長年、サッカー日本代表の司令塔として活躍してきた遠藤保仁選手。フィジカル面では平凡であるにもかかわらず、18歳でプロ入りしてから20年弱、Jリーグの第一線でプレーし、日本代表としては歴代最多の152試合に出場、3度のワールドカップを経験できたのはなぜか? 『「一瞬で決断できる」シンプル思考』(KADOKAWA)を刊行した遠藤選手に、自身の思考や決断のプロセスについて解説してもらいました。

■一流が身につけている能力とは?

 フィジカルだけを見れば、並の選手ともいえる僕が、世界の一線で戦ってこられたのは、サッカー選手として必要不可欠な能力をたえず磨いてきたからだと思っています。それが「先を読む力」です。

 フィジカル勝負では分が悪い僕が世界を舞台に戦うためには、頭をうまく使って、先読みのセンスを発揮するしかありませんでした。

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「遠藤はパスのセンスにすぐれている」と評されることがよくあります。もちろん、いいパスを出すには、ボールを止める、蹴るといった基本技術が身についていることが大前提ですが、フィールドを俯瞰し、少し先の未来を予測するという能力が必要不可欠。だから僕は、3~5手ぐらいまでプレーの先を読んで、どうしたら相手が崩れるかを考えながらプレーしているのです。

■サッカー選手なのに「あえてダッシュしない」ワケ

「遠藤はいつもゆっくりプレーしている」ともよく言われます。試合を見ている人は僕の動きがゆっくりしているように見えるから運動量も少ないと思い込んでいるようですが、南アフリカ・ワールドカップにおけるFIFAの公式データによると、僕がチームでいちばん長い距離を走っていました。この事実には、多くの人が驚いたようです。

 僕のプレーがゆっくりしていて、運動量が少ないように見えるのは、ダッシュをする回数が少ないからだと、自己分析しています。もちろん、あえてダッシュをしないように意識しています。理由は簡単で、ダッシュをすればボールをコントロールするのが難しくなるからです。

 たとえば、5メートル先の地点に移動するとき、周囲の状況から先読みをして早めに足を踏み出せば、ダッシュをせずに到達できることが多い。ダッシュをしなければボールも扱いやすいから、正確なプレーもできます。先読みができれば、ダッシュをしなくてもすむし、そんなに動きまわる必要はなく、ムダが減るわけです。

 サッカーでは、先読みが正確にできるほど有利な立場を得ることができます。次のプレーを予測して、相手より1秒先に動き出せれば、そのぶんパスを通したり、ボールを奪えたりする可能性は高まります。コンマ何秒でも先にアクションができれば、大きなアドバンテージになるのです。

■仕事にも活用できる「先読み力」

 仕事でも先読み力がある人は、ライバルよりも早くアクションを起こし、有利なポジションに立つことができるはずです。たとえば、お客様や上司が求めているものをいち早く察知し、それを提供する。そのような先読みができる人が結果を出すのは、 サッカーもビジネスの世界も同じではないでしょうか。

 サッカーのように体同士が接触するスポーツは、フィジカルが強いほうが有利だとされます。しかし、サッカーのうまさはフィジカルだけでは決まりません。

 もしフィジカルで勝敗が決まるのであれば、僕は日本代表に呼ばれることはなかったでしょう。それどころか、日本人選手の中でもフィジカルが強くない僕は、プロ選手として長くプレーすることは不可能だったはずです。実際、日本代表選手の中でも、僕の体力測定の数値は下から数えたほうが早いくらいですからね(笑)。それでも世界の舞台で戦えているのは、常に「先読み」を心がけてきたからです。

■遠藤流「先読みのコツ」を伝授

 守備をするときのポジショニングの良し悪しも、先読みの力で決まります。たとえば、セカンドボールが落ちてきそうな場所を予測し、ポジショニングをとれば敵よりも早くボールに触ることができます。

 実際過去に、僕はセカンドボールを拾う回数が多いというデータがあります。ボールのこぼれる方向を見極めてから動き始めたら、足も速くないし、フィジカルも強くないので分が悪い。だから、相手の体勢や状況を見て、「このへんにこぼれてくるのでは」と常に先読みするようにしているのです。

 たとえば、ボールを競り合っている選手が後ろに下がりながらヘディングするようだったら、ボールは後方に流れていくか、もしくは頭に当てることができても、勢いがつかずに選手の近くに落ちそうだと予測できる。だとすれば、その選手との距離を前もってつめれば、ボールを奪取できる可能性が高まります。このように先読み力にすぐれていれば、自分より屈強な相手でも、優位に立つことができるのです。

 では、どうすれば先読みして、有効なポジショニングをとることができるか。もちろん、長年の経験から自然と体が動く場合もありますが、基本的には「相手をよく見る」ことが原則です。

 たとえば、守備のときは、相手の足の動き。どちらの足に体重がかかっているかを見れば、どっちにドリブルをするのか見当がつきます。また、蹴るときの軸足がどちらを向いているか、あるいは足の振り方などを観察していれば、どの方向にボールを蹴ろうとしているのかだいたいわかります。これらの要素をヒントに先読みして動き出せば、ボールを奪える可能性は高まるというわけです。

■一流は味方だけでなく敵ともアイコンタクトする!?

 もうひとつ、相手の目線も重要なヒントとなります。ボールをもっている選手は、基本的に味方の位置を確認してパスを出す。だから、パスを出す方向に自然と視線が向くものです。それを察知できれば、パスコースを消すことができます。

 サッカーでは味方同士でアイコンタクトをして連携を高めることがよくありますが、僕の場合は敵ともアイコンタクトをするように心がけています。「目は口ほどにものを言う」 ということわざがあるように、目線から得られる情報はたくさんあるからです。

 逆をいえば、ボールをもっている選手は、視線からパスコースを見極められないような駆け引きをしているわけです。僕も「ノールックパス」といって、視線の方向とはまったく異なる選手にパスを出すことがよくありますが、それは相手の裏をかくためのひとつのテクニックといえます。

 ただ、僕の場合もそうなのですが、いくらノールックといっても、パスを出そうとしている選手をまったく見ていないわけではありません。どこかの段階で必ず視線を送っているはずです。だからこそ、相手の目を見ていると、先読みのヒントを得られるのです。

■サッカーも人生も心理戦

 試合中も頭を使ってよく考えている選手というのは、次のプレーを予測するのがむずかしい。いかに先読みをするか、逆にいかに先読みをさせないか、そんな駆け引きがフィールド上で行われているのです。 僕はそういう心理戦を楽しんでいる節があります。

 先日、プロのマジックショーを間近で見る機会がありました。マジックには必ず、見ている人を欺(あざむ)くしかけがある。たとえば、右手にもっているトランプのカードに観衆の視線を集中させておき、左手で欺くしかけを用意する。相手の目線をずらすという意味では、サッカーにおけるフェイントやノールックパスと同じです。このようなマジックを見ていても、自分の意識ひとつで、心理戦で優位に立つためのヒントを得ることができるのです。

 営業や商談、プレゼン、交渉などの場はいずれも心理戦かと思います。そのような心理戦で勝つためには、相手の表情、しぐさ、発言、相手 の置かれた状況などをこれまで以上につぶさに観察してみてはいかがでしょうか。

 目や視線は僕たちが思う以上に心の中を見事に映し出しているのですから……。

遠藤 保仁(えんどう やすひと)
1980年1月28日、鹿児島県生まれ。鹿児島実業高校卒業後の1998年に横浜フリューゲルスに入団。京都パープルサンガを経て、2001年にガンバ大阪に加入。数々のタイトル獲得に大きく貢献し、2003年から10年連続でJリーグベストイレブンに選出され、現在もガンバ大阪の中心選手として活躍中。また、U-20日本代表をはじめとし、各年代の日本代表に選出され2002年11月に日本代表国際Aマッチデビュー。その後は、日本代表の中心選手として活躍し3度のワールドカップメンバーに選ばれる。「日本代表国際Aマッチ出場数最多記録保持者」「東アジア最多出場記録」「2009年アジア年間最優秀選手」「2014年JリーグMVP」など数多くの記録を持つ。178㎝、AB型。
遠藤保仁オフィシャルサイト「Yatto7」https://yatto7.jp/
遠藤保仁公式ブログ https://lineblog.me/yasuhito_endo/