羽生善治が語る、棋士という職業そして人生について
公開日:2018/3/4
羽生善治がこれまでの将棋人生を語った『永世七冠 羽生善治』が、2018年2月24日(土)に発売された。
著者である羽生は15歳で史上3人目の中学生プロ棋士となり、19歳で初タイトル・竜王を獲得。24歳で九段に昇進すると、26歳で七冠制覇を達成し、内閣総理大臣顕彰を受けた。圧倒的な強さで天才と称され、日本中に羽生フィーバーが巻き起こったのは多くの人が知るところだろう。その後も躍進を続け、2017年に前人未到の「永世七冠」を達成。そして2018年、将棋界初となる国民栄誉賞を受賞した。
同書では、小学生時代からの永遠のライバルである森内俊之九段との初対談を64ページの大ボリュームで収録。対談では、初めて将棋を覚えた時のこと、2人が初めて対戦した思い出、永世七冠という前人未倒の記録についてやAIの参入など、様々なテーマで対談を繰り広げた。この対談で羽生は「強いライバルがいたから自分もここまでこれた。それは間違いないです」、森内は「もし羽生さんと同期でなかったとしたら多分全く違う棋士人生でした」と語っている。
また、40年間に渡って将棋界を撮り続けてきた弦巻勝の写真で振り返る小学生時代から現在までの羽生の軌跡や、少年時代に腕を磨いた「八王子将棋クラブ」の八木下征男席主のインタビューなども掲載されている。
さらに、才能だけではなく「努力」「直感力」「向上心」という人間性を兼ね備えた羽生が、30年余りに及ぶ棋士人生の節々で、勝負と人生についての大切な考えを語ってきた言葉も収録。その一部を紹介しよう。
■直感の信頼度
「一局の中で、直感によってパッと一目見て『これが一番いいだろう』と閃いた手のほぼ7割は正しい選択をしている」著書『決断力』より
羽生の人間の直感に対する信頼度は、「経験的に獲得してきた人間の瞬時の判断力はかなり信頼に値する」「いつも絶対的な信頼が置けるものとは限らない」という2つの意味を持っている。ただ、いかに素早く無駄な手を切り捨てられるかで、直感力の精度を上げることは可能。7割という数字は、不完全な人間存在をうまく言い表していると言えるだろう。
■自分で気づく
「全ては自分自身で気づかなくてはダメだということなんですね。ヒントのようなものをあげても最後に解決方法を見つけるか見つけないかはその人本人にかかっている」雑誌『なごみ』2006年7月号より
師匠が弟子に教えないことで、弟子の個性を生かして飛躍的な向上へつながる場合がある。羽生の師匠・二上達也九段は、自分からはあえて羽生に積極的に教えることをせず、周囲に対してはよく「羽生のことを見守ってやってくれ」と語っていたという。羽生は取り組むべき課題に「自分で気づく」ことの大切さを、自分に対し何も言わなかった師匠から学んだと語っている。
■才能とは
「才能とは一般的に生まれつき持った能力のことをいいますが私は、一番の才能とは同じペースで努力をし続けられる能力だと考えています」『人間会議』2004年冬号より
羽生が将棋界で尊敬しているのは、60年以上にわたり棋士として活躍した加藤一二三九段の将棋に対する情熱である。最高位の「名人」経験者でもある加藤は勝負にこだわり続け、75歳を過ぎても若手棋士を相手に持ち時間を最後まで使い切って将棋を指した。その継続した努力にこそ、勝ち負けを超越した人間の「価値」があるというのが羽生の考えである。
■挑戦の意味
「新しい試みがうまくいくことは半分もない。でもやらないと自分の世界が固まってしまう。負けるかもしれないが挑戦し続けようと思った」2002年9月、小学生向け講演にて
羽生がしばしば語る座右の銘は「運命は勇者に微笑む」というもの。先が見えなくなったとき、あるいは不安を感じたときに必要なのは、守りに入ることなく一歩を踏み出す勇気。これは羽生を大棋士たらしめた重要な行動原理のひとつでもある。もちろん、その思い切った挑戦を単なる蛮勇とさせないような、研鑽と努力が必要であることは言うまでもないだろう。
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