ストレスに自然と強くなる2つの習慣。不安やストレスはコントロールできる
公開日:2018/3/3
体力測定B判定でも、長年サッカー日本代表の司令塔として活躍してきた遠藤保仁選手。それを可能にしたのは、強靭なフィジカルなどではなく、頭を使った「思考プロセス」そのものである。『「一瞬で決断できる」シンプル思考』(KADOKAWA)を刊行した遠藤選手が、自身の思考プロセスや日頃の習慣について大いに語る。
■不安やストレスはコントロールできる
僕はどんなときでも冷静にプレーをしているように見えるようです。もしそのように見えるなら、不安やストレスをコントロールすることを意識しているからだと思います。
サッカーの試合では「絶対に負けない」という気持ちの強いほうが勝つ。しかし、心が熱くなりすぎるのは逆効果。思うようなプレーができなかったり、敵チームの挑発に乗ってイライラし始めたりすると、冷静なプレーができなくなります。
サッカーは体だけではなく頭も使って戦うスポーツのため、冷静さを失うと状況判断や未来予測にミスが生じて、自分の持ち味を出せなくなります。そうなったら敵の思うつぼです。
これまでの僕の経験からいえば、ふだんの練習通りにプレーをすることが、最もいいパフォーマンスにつながります。だからこそ、心は熱く、プレーは冷静に。そのバランス感覚がサッカーでは重要というわけです。
■習慣1 つらいときこそ「笑顔」を見せる
冷静さを失わないために僕自身が心がけていることは、プレー中でも笑顔でいること。苦しいときやうまくいかないときに一度笑ってみると、不思議ですが自然と冷静になれます。そのメカニズムはわからないけど、笑顔になることで心に余裕が生まれて、まわりの視野が広くなる感覚があります。
試合中に笑ったりすると、「気合いが足りない」「もっと本気でやれ」という印象を与えるかもしれません。ですが、気むずかしい顔をしていたからといって、ゴールが入るわけではない。苦しいときでも冷静さを維持していたほうが、ゴールにつながる可能性は高くなります。
また、笑顔を見せることで、心理面で敵チームより優位に立てるというメリットもあります。後半の正念場ともいえる時間帯に笑っていたら、「あいつ、まだ余裕があるのか。やばいな」と敵の選手は思うのではないでしょうか。逆に、イライラしている顔や疲れている顔を見せたら、「あいつは余裕を失っているからチャンスだ」と敵に思われ、心理的に不利な状況に陥りかねません。
■ミスをしても笑うことは正解か!?
ミスをしたときも、落ち込むくらいなら笑顔を見せたほうがいい。ミスをすると精神的にショックを受けて下を向いてしまう選手がいます。下を向けばいっそう沈んだ気持ちになって冷静さを失い視野が狭くなる。また、敵の選手に自信をもたせる結果にもなってしまいます。試合中に下を向いて、いいことなどひとつもないのです。
サッカーの試合でミスをするのは当たり前。いかに個人のミスをチームでカバーできるか。組織力があるチームは、ミスをお互いにカバーし合っています。
失敗してヘラヘラしているようでは困りますが、周囲が「いいよ、気にするな」「ナイストライ」と声をかけてあげて、それに対して失敗した本人も笑顔を見せて、意欲的に次のプレーにつなげていく。そんなチームはみんなが最後まで士気が落ちず冷静に戦うことができるはずです。
人生においても、イライラした顔や疲れた顔をしていたら、その人のまわりに人は集まってこないと思います。反対に、いつも明るく振る舞っていると、人が引き寄せられてきます。お金も仕事も幸せも、すべて人を介してもたらされる。そういう意味では、笑顔でいる人は、結果的に豊かな人生を過ごすことができるはずです。
もし気分が盛り上がらないときは、つくり笑いでもいいので笑顔になってみたらどうでしょうか。行動(体や表情)を変えることで、思考や感情が変わり、元気になる。つまり、心があとからついてくることもあるはずです。
■習慣2 1日単位で考える
何をやっても本調子を出せず、結果が出ない……。アスリートの多くはスランプを経験しているようです。そうなると不安やストレスから、さらに調子を崩してしまいがちです。しかし、僕の場合、スランプという言葉は存在しません(笑)。
僕が主戦場としているボランチというポジションは、チームの攻守の要。敵の出方を観察しながら先読みをして、素早く対策をチームメイトに伝え、ゲームをコントロールするのもボランチの役割のひとつです。だから、ボランチのパフォーマンスが安定すれば、自然とチーム全体も安定します。
そんな役まわりだから、好不調の波が少ないのが理想ですが、そうはいっても調子がいまいちのときも現実にはあります。そんなときは、それがその日の100%だと考えるようにしています。調子がよいときと比べてしまうと、スランプだと感じるかもしれませんが、僕は1日単位で考えるようにしているため、スランプとは感じないのです。
いくら調子が悪かったといっても、頑張って練習した結果なのだからいいのだ。スランプかどうかを心配するよりも大事なことは、たとえ調子が悪いときでも、少しでもいいプレーをしようと努力することです。
その日の101%の力を出そうと背伸びをする。そうした努力を積み重ねることで、100%のアベレージは上がっていき、調子がいいときと悪いときの差が縮まっていくはずです。
仕事でも、結果が出ているときと、思うように結果が出ないときがあるでしょう。結果が出ないときは気持ちも腐っていきがちですが、大事なのは一日一日でベストを尽くすこと。調子が悪いなりに101%の力を出そうと努力をしていれば、必ず光が見えてくるはずです。
■運やジンクスも気にしない
何をやってもうまくいかないときは、「最近、運が悪いなあ」と思う人もいるかもしれません。アスリートにも運勢や占いの類を気にする人もいるようですが、僕はそういうものも気にしない(笑)。
「最近、悪いことが重なるなあ」と思うことはあっても、「運がよくなるように何かをしなければ」とあせることはないですし「そのうちよくなるんじゃないの」と思う程度です。
テレビ番組などで占いコーナーをたまたま見ることもありますが、「今日は運勢がいい」と言われて悪い気はしません。でも、家を出たらすぐにそんなことは忘れてしまうし、「今日は運勢が悪い」という結果でも、すぐに忘れてしまう。
運が悪いことが重なったとしても、それは過去のこと。未来も運が悪いとはかぎらないし、起きてもいないことを過剰に心配してもしかたがない。それよりは現実と向き合って、今日も当たり前のことを当たり前に淡々とやることのほうが大事です。
「試合中はこれを身につける」といったジンクスなども信じません。強いていえば「ボールに座らない」「スパイクのかかとを踏まない」ということは小さい頃から指導されてきたので、今も絶対にしない。大好きなサッカーの道具を雑に扱えば、自分のプレーも雑になるだろうから。でも、それはジンクスというよりも、僕のなかでは常識やマナーといった「当然守るべきこと」という認識です。
「最近、運が悪い」といって平常心を失い、あれこれ試すのは逆効果になるのではないでしょうか。当たり前のことを当たり前にやっているうちに、自然といい結果が出るようになると僕は思います。
遠藤 保仁(えんどう やすひと)
1980年1月28日、鹿児島県生まれ。鹿児島実業高校卒業後の1998年に横浜フリューゲルスに入団。京都パープルサンガを経て、2001年にガンバ大阪に加入。数々のタイトル獲得に大きく貢献し、2003年から10年連続でJリーグベストイレブンに選出され、現在もガンバ大阪の中心選手として活躍中。また、U-20日本代表をはじめとし、各年代の日本代表に選出され2002年11月に日本代表国際Aマッチデビュー。その後は、日本代表の中心選手として活躍し3度のワールドカップメンバーに選ばれる。「日本代表国際Aマッチ出場数最多記録保持者」「東アジア最多出場記録」「2009年アジア年間最優秀選手」「2014年JリーグMVP」など数多くの記録を持つ。178㎝、AB型。
遠藤保仁オフィシャルサイト「Yatto7」https://yatto7.jp/
遠藤保仁公式ブログ https://lineblog.me/yasuhito_endo/