電子コミックの売上、前年比17.2%増。伸び率は縮小… 出版不況の正体とは?
公開日:2018/3/3
1月25日、出版科学研究所は2017年の紙の出版市場が前年比約7%減の1兆3701億円だったことを明らかにした。本連載と連動するダ・ヴィンチ本誌コラムで紹介した予想値とほぼ同規模で、13年連続で市場は縮小していることになる。
これを受けて、同日に日経新聞は「出版、最後の砦マンガ沈む 海賊版横行で販売2桁減」という見出しの記事を出している。マンガ単行本の販売も13%減となったことを大きく報じたのだ。
たしかにマンガ海賊版サイトの横行は目に余るものがある。海賊版サイトは、ユーザー向けの説明として、利用は違法ではないと強調し、サイト内の広告から莫大かつ不当な利益を上げているだけでなく、正規版の売上に影響を与えていることは間違いないだろう。
しかし、音楽や映画・アニメがそうであったように、海賊版配信は電子化という変化に残念ながらついてまわるもので、海賊版さえ撲滅すれば、「○○不況」が終わり、再びCD・DVD・書籍といった物理的なパッケージが売れる、という時代に戻るわけではない。根底にある変化に応じた、コンテンツの作り方・売り方へと移行できなければ、ユーザーは「使い勝手の良い」別の海賊版サイトを使い続けることになるだろう。
実際、問題が指摘されて閉鎖となった海賊版サイト「フリーブックス」をキーワードに検索すると、「代わり」「ミラー」といった検索ワードが推測候補として表示される。これは、それだけ、同様に無料でマンガを読みたい、というニーズが根強いことを意味しており、類似サイトが次々と生まれているのも事実だ。
■電子出版の伸びが鈍化している
紙の出版物の売上減少が続く一方で、伸びているのは電子出版だ。出版科学研究所の集計では、ここ3年間で1502億円→2215億円へと拡大している。そのなかでも電子コミックの伸びが前年比17.2%増の1711億円と存在感が大きい。
しかし、その伸び率が縮小していることも指摘されている。海賊版サイトも原因の1つだが、レポートでは「値引きキャンペーンや無料試し読みなどを各社がこぞって行っているため飽和状態」となりつつあると分析している。
「紙書籍のベストセラーが、電子版でも売れる傾向にある」とされるが、肝心の紙の出版物において、「人気作品の完結や映像化作品の不振、新規ヒット不足」が目立ったという。電子書籍にユーザーがシフトしていく中で、従来の紙の出版物での人気作が完結し、新しいヒット作が生まれないために、紙の市場の縮小に引きずられる形で、電子出版の市場の拡大の余地も小さくなってしまっている。そして、閉鎖に追い込んでも別の海賊版サイトをユーザーが求めてしまうというのは、出版業界が電子出版という機会を十分に活かし切れていないことの裏返しではないだろうか?
■雑誌のような、新しい作品との出会いとコミュニケーションの場が必要
ここ数年の紙の出版物のなかでも雑誌の不振が顕著だ。前年割れば20年以上続いており、スマホの登場や海賊版サイトの登場だけでは説明がつかない期間に及んでいる。この間マンガ雑誌の休刊・廃刊も続いた。このことが、「新しいヒット作」が生まれる余地が小さくなっている原因であり、海賊版の横行を許す要因と筆者は考えている。
週刊・月刊のマンガ誌は、ヒット作の連載と共に、新人賞作品や新人の読み切り作品に読者が出会う場ともなっている。そして、マンガだけでなく、その作品を推す編集者や著名マンガ家のレビューや、作品から生まれた映像やゲームなどのメディアミックス展開を仕掛ける起点ともなっていた。
ところが、定期的に雑誌を買って読む、という習慣がなくなりつつある今、多くの人が同時に新しい作品に出会えなくなったことに加え、「この作品はどう味わうのが良いのか」といった手がかりを得ることも難しい。
「Twitterなどのソーシャルメディアもあるし、マンガアプリもあるではないか」という疑問がわくかもしれない。しかし、ソーシャルメディアに流れてくるマンガは、単発モノのコラムマンガのようなものが多い。Twitterのつぶやきをマンガに置き換えたようなスタイルのものがウケていて、雑誌のように長編が生まれたり、他の作品もあわせて読んだりということにはなかなかつながっていないのだ。
マンガアプリも100万ユーザーを超えるものが出てきており、利用者数からすればかつての雑誌のような影響力をもたらしていても不思議ではない、しかし、雑誌のような「編集部」を持たないものも多く、ユーザーの投稿作品を人気ランキングで掲載するスタイルのものがほとんどだ。紙の雑誌を基軸とするアプリでは、雑誌ほど編集部の存在感がそこに現れてはいない。「名物編集者が次々と特定ジャンルのヒット作を生み出し続ける」というかつての成功モデル代わる方程式は電子の世界では編み出されていないのだ。
雑誌は、マンガなどの物語と出会う場であり、その作品を生み出す作者や編集者と読者が擬似的にコミュニケーションを取る貴重な場所であったと言えるだろう。ネット・ソーシャルメディアの時代になった今、それに代わる場がまだ確立されていないのが現状だ。そういった場がなければ、たとえ魅力的な作品や商品が生まれても、その存在を十分にユーザーに届けることができないのだ。
出版業界は、海賊版サイトの撲滅を図ることはもちろんだが、それらを上回る魅力を提供することが求められているのだろう。
文=まつもとあつし