迫りくるデジタル破壊者たち。大前研一流生き残り術とは?
公開日:2018/3/12
「デジタル・ディスラプション」とは、テクノロジーによる既存産業の破壊と生まれ変わりのことだ。過去には、フィルムカメラ産業が半導体画像センサーにより縮小し、音楽産業は、ストリーミング技術により10分の1に縮んだ。
現在、書籍のEコマースから始まったAmazonは、小売流通業の脅威となり、UberやAirbnbなど破壊者が後に続く。破壊が大規模かつ一気に進む背景を解き明かし、処方箋を示すのが本書『デジタル・ディスラプション時代の生き残り方』(大前研一/プレジデント社)だ。
デジタル・ディスラプターは、非効率な産業、バリューチェーンや製品を見つけるとAIやロボットなどのテクノロジーを駆使して、一気に破壊してしまうという。その背景にあるのは、スマートフォンとウェブサービスの普及である。
アプリによって提供されたサービスは、容易に国境を越えられることから破壊の規模も大きくなる。フィルムカメラの市場は約4千億円だったが、小売は135兆円、金融118兆円、自動車63兆円、物流24兆円と、これから影響を受けるとされる産業の市場規模は桁違いの大きさだ。
シェアリングエコノミーの代表格Uberの経済圏は、物流を取り込み、自動運転化、さらに付随する保険や金融にまで広がるという。金融サービスも、決済、送金、融資、運用など、フィンテック(ファイナンス・テクノロジー)により分野ごとの強者が現れている。
たとえば、ロボアドバイザーの出現によって個人の資産運用はスマホで依頼でき、提供側もファンドマネジャーが不要になってしまう。
大前氏が、企業生き残りへの処方箋として示すのは、「業界健康診断」による破壊者襲来のチェックと「真似る」ことによる対抗にあるという。自ら同様なサービスを提供する自己変革がその術なのだ。一方で‘破壊’とは、提供側の都合である業界秩序を壊し、消費者の便益を最大化する‘民主化’でもある。仮想通貨も、通貨の民主化がその本質だ。金融機関のみならず、通貨に信頼を与える国家までを置き去りにして、使い手に委ねることがこのテクノロジーの狙いなのだ。
全てのものがインターネットにつながるIoTは、機械、電気、IT、に続く歴史上4回目の産業革命と言われている。まず、モノに遠隔から専門家の知識が与えられるようになる。身近な事例は、コンビニのコーヒーマシンだ。遠隔地から豆や水がモニターされ、メンテナンスされるIoTの産物なのだ。そしてその先は、全てがAIにつながり、自ら賢くなる社会の到来だ。個人の生き残り策は、AIを使いこなす側に立つことだという。
大前氏は、「産業が破壊され、経済が縮んだとしても、人の欲望までは破壊されない。仕事が減れば、空いた時間で人生を楽しめばいい」と述べる。ポジティブに破壊後の世界を楽しもうではないか。
文=八田智明
大前研一(おおまえ・けんいち)
早稲田大学卒業後、東京工業大学で修士号を、マサチューセッツ工科大学(MIT)で博士号を取得。日立製作所、マッキンゼー・アンド・カンパニーを経て、ビジネス・ブレークスルー代表取締役社長、ビジネス・ブレークスルー大学学長となる。