SNS上の仲良しがいちばん怖い…!? 変容するストーカー犯罪にどう立ち向かうべき?

社会

公開日:2018/3/19

『ストーカー 普通の人がなぜ豹変するのか』(中央公論新社)

「ストーカー」と聞けば、挙動不審で平常心を失った危険人物を連想する人も多いだろう。フィクション、現実を問わず、世間では「ストーカー=一般人からかけ離れた異常者」というイメージが浸透している。しかし、実際には普通の人間が何らかのきっかけでストーカーに変わってしまうケースの方が多いのだ。

『ストーカー 普通の人がなぜ豹変するのか』(中央公論新社)では、ストーカーが生まれる背景や、間違ったストーカー対策が克明に指摘されていく。著者はカウンセラーとして、ストーカー被害者、加害者の両方と関わり続けてきた。そのほとんどは、ニュースで取り上げられるような大事件ではない。逆を言えば、日常的にストーカーの火種は蔓延している。本書を読んで「自分もストーカー気質があるのではないか」「ストーカーを生むような行動を犯していたのではないか」と我が身を振り返ってみてほしい。

 著者は本書で「ストーキング・リスク・プロファイル(SRP)」なる分類表を紹介する。SRPによるとストーカーは「拒絶型」「憎悪型」「親しくなりたい型」「相手にされない求愛型」「略奪型」の5種類に分けられる。このうち、ストーカーのイメージとしてもっとも広まっているのは、親しい関係が崩壊したことを受け入れられない「拒絶型」と、恨みを持つ相手への復讐としての「憎悪型」だろう。事実、従来のカウンセリングや法律も、これら「悪意あるストーカー」を前提に考案されてきた。だが、ストーカーの中には悪意なき人物もいる。たとえば、「片思いの女性をボディガードするつもりで1年以上も自宅まで尾行していた男」などは「親しくなりたい型」のストーカーだ。ストーカーの定義は広く、どんなスイッチで人間が豹変するか分からない。こうした傾向に拍車をかけているのが、「SNSの浸透」である。

advertisement

 著者は、ストーカーの危険度を高い順に「ポイズン」「デインジャー」「リスク」と呼ぶ。しかし、SNSによって誰もが他人のプライベートを監視し、言動に一喜一憂する時代では新たに「ハザード(環境)」という領域が生まれた。つまり、SNSに参加することで、思いがけず他者との接近欲求を抱いてしまう人が増えたのである。こうした欲求が「何度も相手にメッセージを送る」までに高まり、返信がないことを「受け入れられていない」と解釈するようになると、「相手にされない求愛型」ストーカーが生まれる。

 また、恋愛観の多様化もストーカーが増加している要因だと著者は説く。現代では肉体関係の有無と、恋愛関係の成立を同一視していない男女が多い。しかし、すべての人間がそうではないため、一方が「付き合っている」と思い込んでいるのに、もう一方が「付き合っていない」と拒絶する関係が生まれる。そして、裏切られたと感じた方がストーキング行為を働くようになる。

 こうしたストーカー像の変容を踏まえて、本書では「恋人をストーカーにしないための別れ方」「ストーカーの人間的特徴」なども紹介されている。ちなみに、学歴や職種、性格などはストーカーを見極める要因にはならない。むしろ、危険度を決定するのは常識の欠落や、独特すぎる思考法であり、ストーカーには「人の命も魚の命も等価」などの偏狭な価値観が目立つという。

 ストーカーとは心の病であり、放置しておくとあらゆる手段で自分を正当化し、ストーキング行為を繰り返す。そこで、著者は本書の終盤で「条件反射制御法」というストーカーの治療法についても解説している。条件反射的に他者への攻撃に転じるストーカーは、「反射」を克服する必要がある。ストーカーは自力で治せるものでもないし、「会ってくれたら謝る」などの言動も信用してはいけない。それよりも、被害者と加害者が状況の深刻さを理解し、第三者を頼る勇気を持つことが重要なのだ。

文=石塚就一