大英帝国を実現したのは物流の力? インターネットが引き起こす現代の物流革命
公開日:2018/3/20
グローバリゼーションという言葉は、誰でも聞いたことがあるはずだ。Amazonなどを通じて世界中からモノを購入できる状況も、この世界一体化の一例だ。
多くの人は、グローバリゼーションの背景にインターネットが関係していることを理解している。だが情報の流れだけでなく、「モノの動き=物流」が国家や歴史において大きな役割を果たしてきたことを教えてくれるのが、本書『物流は世界史をどう変えたのか』(玉木俊明/PHP研究所)だ。
■世界史の動因を物流の変化から読み解く
本書では、歴史上起きた事柄と物流との関係をつぶさに知ることができる。
たとえば、「なぜ東アジアがヨーロッパに先駆けて経済発展したのか」については、秦の始皇帝が中国を統一し、史上初の統一通貨をつくったことの影響力を述べている。それまで物流や商業活動の障壁となっていた無駄が統一通貨の登場で省かれ、コストが大きく低下した。次の漢の時代にはさらに物流や経済システムが効率化され、その影響力はアジアの多くの地域に広がった。この経済発展をもとに、漢の武帝はモンゴル、中央アジア、ベトナムなどへ外征を果たし、大帝国を築いたのだという。
また、ヨーロッパをテーマにした物流や商流の歴史も興味深い。ローマ帝国は、フェニキア商人の活動圏(現在の地中海東岸あたり)を手中に入れることができたため、物流の要所を押さえ、帝国の維持・拡大ができたこと。またオランダが大航海時代に覇権国家となったきっかけは、バルト海地方から輸入した穀物を、欧州各地の食料が不足している地域へ運搬する商流を確保したためであったこと。これらのように、歴史が動いた要因を物流の変化から読み解いている。
■大英帝国を築いたきっかけも物流にある?
本書で特に印象に残ったテーマは、「パクスブリタニカはなぜ実現したのか」だ。パクスブリタニカは、直訳すると「イギリスの平和」。大英帝国が世界中に影響力を誇った19世紀半ばから20世紀初頭までの時期を指す。
私たちはなんとなく、イギリス国内で起きた産業革命が国家繁栄の要因だったとイメージしているが、工業製品の輸出よりも大きな利益を上げていたのは、当時発明された蒸気システムを利用した輸送機関(汽車、船)を使った運送業だったという。イギリスは蒸気船による海運業の発展を通じて、植民地や自治領だけでなく、中国やラテンアメリカなどに経済的影響力を大きく広げることになった。世界の物流業界を支配して、パクスブリタニカを実現したのだ。
■今起きているかもしれない物流革命
大英帝国の隆盛期に起こった現象は、今また別のかたちで起きているのではないだろうか。
現代でグローバル企業が掌握している物流システム、またそれを可能にしたインターネット技術は、かつてイギリスの物流を急進させた蒸気機関のように、“革新的な手段”だと考えられないだろうか。
グローバル企業は、インターネットを通じて世界中からリアルタイムに商品注文やマーケティング情報を取得し、即時モノを配送できる物流システムも確立している。また、かつて秦が貨幣統一を成し遂げたように、国家間の為替システムを超えた、ネット上の仮想通貨取引も近い将来実現するかもしれない。
これらはすべてインターネットが可能にした進歩だ。
インターネットは情報や金融の流通、そして物流のさらなる発達を促進している。私たちは新たな物流革命を、目の当たりにしているのだ。
文=古林恭