胸の奥をアツくさせる新“スポ根”マンガ! テーマは美大受験!?
更新日:2018/4/23
スポーツ根性もの、いわゆる“スポ根”は、マンガ好きなら共通理解できる不変の人気テーマだ。その競技に才能と努力や根性で向き合い、勝利を目指す物語には、もちろん熱血なキャラクターがつきもの。そんなストーリーとキャラたちは、いつの時代もマンガ好きの胸の奥をアツくさせてくれる。
そんなスポ根ものだが、最近はいわゆるメジャーなスポーツを題材にするとは限らない。本稿紹介したいのは、美術の世界を描く『ブルーピリオド』(山口つばさ/講談社)だ。
■美術初心者の少年は芸大を目指す
いわゆるリア充な高校2年生・矢口八虎(やぐちやとら)。友人たちとおもしろおかしく毎日を過ごしつつも成績も優秀と、一見非の打ちどころのない生活をおくっていた。八虎はある日、美術部の先輩である森が描いた絵に心を奪われる。衝撃から衝動へ、いつしか八虎は美術の世界へ身を投じる。そしてある意味では東大よりも難関とされる、東京藝術大学を目指すことに。
主人公が自分の好きなもの、やりたいことに目覚め、それに青春を燃やしていく、王道とも言えるストーリー。これはアツくならないわけにはいかない。
■アツいセリフに主人公も読者も燃え上がらせる
スポ根ものには魅力的なキャラクターと共に、名言となるセリフがつきものだ。もうその言葉のチョイスだけでも物語に引き込まれる。
「好きなことは趣味でいい、これは大人の発想だと思いますよ」
絵が好きだと自覚した八虎が、なぜ趣味ではいけないのかと美術部の顧問に聞いたときの答えがこれ。生きている実感がなかった八虎は、ここから突き動かされるように美大を目指すのだ。おばあさん先生が実は達人で、セリフに説得力がある、というのもアツいスポ根ものの定番だ。読者で何かを目指したことがある人も、そうでない人も、胸に突き刺さるセリフだろう。
「手放しで才能って言われるとなにもやってないって言われているみたい」
八虎は、自分が感動した絵を描いた森に、才能があると伝えてこう言われる。そのとき八虎は、才能だけではなく、技術を高めることで戦えるのだと気づかされた。読者もまた、努力で立ち向かえるのだ!と思わされる。
「悔しいと思えるならまだ戦えるね」
八虎は美大の予備校で天才と出会う。その相手と比べて自分がただの人とつぶやくと、美術部の龍二にこう言われた。八虎以外の受講生たちは自分と比べることもできなかった。だが八虎は違うと。負けることはある、でも心が折れないキャラクターは最強でアツいと、読者は知っている。
■絵画ブームを呼ぶ? 読者も描きたくなるリアリティ
すぐれたスポ根マンガは、題材がメジャーなスポーツでなかったとしても「こんなジャンルの競技があるのか」と思わせる。その題材(競技)に読者が興味をもつことで、マンガ発として話題になりブームとなったものも数多くある。本作も美大受験とまではいかないまでも、美術を志したり、興味を持つ人が増える可能性は十分にある。
本書では色の使い方、遠近法やデッサンのコツとその習得方法について、論理的かつていねいに説明されている。これは読者が思わず絵を描いてみたくなるほどだ。筆者も本作を読んで胸の奥がアツくなると同時に、作中通りやったら絵が上手くなるかも、やってみようかな…と思わされた。実際やってみたくなることも、すぐれたスポ根マンガの魅力であると言えるだろう。
1巻の終わりには才能にみちあふれた受験のライバルたちが登場した。2巻はもうまもなく発売だ。今後の展開も目が離せない。
文=古林恭
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