なぜ“あくび”? 今、ツイッターで大人気の杉野遥亮が選んだ、不思議タイトルの意味とは? ファースト写真集『あくび』刊行インタビュー【前編】
公開日:2018/3/24
映画『キセキ―あの日のソビト―』『覆面系ノイズ』、ドラマ『地味にスゴイ!校閲ガール・河野悦子』などに出演、瞬く間に人気俳優となった杉野遥亮。そんな彼のファースト写真集が刊行される(3月30日発売)。ツイッターフォロワー数21万人を突破した彼の魅力は、そこで彼がつぶやく言葉のような、つかみどころのない心地よさ。写真集にも反映されていったその感覚とは?
すぎの・ようすけ●1995年、千葉県生まれ。第12回FINEBOYS専属モデルオーディションでグランプリを獲得。映画『キセキ―あの日のソビト―』のソウ役で俳優デビュー。その後、ドラマ『地味にスゴイ! 校閲ガール・河野悦子』『嘘の戦争』『花にけだもの』、映画『兄に愛されすぎて困ってます』『覆面系ノイズ』などに出演。18年は、主演ドラマ『福岡恋愛白書13 キミの世界の向こう側』、映画『あのコの、トリコ。』『きらきら眼鏡』『春待つ僕ら』の公開が控える。
なんとも、のどかなタイトルである。ぽかぽか陽気に誘われ、ふわっと手に取ってしまいそうな。若手俳優の写真集のなかに並んでいると、ちょっと異質で、不思議なタイトルではあるけれど。
「撮影地で、リラックスしていたこともあって、よくあくびが出ていたんですよね。“よく”、というか、“ものすごく”(笑)。それを見ていたスタッフの方が、“タイトル、もう『あくび』でいいんじゃない?”とおっしゃっていたほど。タイトルを決めるとき、いくつか並んだ候補のなかにあったのを見て、“あぁ、『あくび』が、いいな”って。言葉自体、どこか僕っぽい気がするし、この写真集の世界観にマッチしているなと思ったんです」
撮影は昨夏の終わりに行った、奄美大島、加計呂麻島で。島に行くまで、その世界観は、なかなか見えなかったという。
「これまでの撮影はモデルの仕事が大半でしたし、それとはまったく違う形で自分を出していくということをやんわり理解していたのですけれど、正直それがどんなことなのかはよくわからなくて。“考えるのではなく、感覚で捉えていこう”と島に向かいました」
写真家は、写真集『ビルに泳ぐ』や、映画『マザーウォーター』『プール』などのスチール写真でも知られる田尾沙織。
「撮影は、田尾さんと互いに探り探り、という感じで進めていきました。モデルの仕事で培ってきたものが出るせいか、僕は型を決めて動くところがあって。でも、撮影したショットを確認していくなかで、自分も風景の中の一部になればいいんだということがわかってきたんです。田尾さんは、これまで人物より風景や自然を被写体としてきたフォトグラファー。そうした方とセッションをしていくうちに、この写真集の世界観というものが、自分の中にだんだん見えてきました」
■一冊の中で変化していく、風景の中にいる、自分の存在
撮影は奄美大島のさとうきび畑をロケ地に始まった。そこには、大自然の中にいきなり、ぽーんと入っていった杉野さんの表情が切り取られている。
「まだぎこちなさがあるんですよね。でもページをめくっていくうちに、そのぎこちなさが自然な表情に変わっていくことに見てくださる方も気付かれるのではないかなと。“僕がいて風景があって”という感じが、“風景があってその中に杉野がいる”というふうに。そうした変化を感じられることも、この写真集の楽しみ方のひとつでもあるかなと思います」
“思考”から切り離され、本能で動けるようになってきたときから、純粋に楽しくなったという。
「撮影モードとそうでないときの、スイッチの切り替えがなくなってきたんです。海に入りたくなったら入る、カメラに向きたかったら向くというふうに」
そんな心地よさの中で、頻繁に出てきたのが“あくび”。それは、まさに心地よい自然体。この写真集の世界観そのものである。
「ベッドに寝っ転がっているシーンは、ほんとに眠くて、半分寝ているんです(笑)。カメラの存在が自分の中でなくなってしまったほど。メガネをかけて、ぼーっと道に佇んでいる写真も目が開いてない(笑)」
映画やドラマで、役によって別人のようになってしまう変容ぶりも、杉野遥亮の魅力のひとつ。この写真集でも、それを目撃することができる。ふわふわした空気感をまとわせていたかと思うと、突然ドキッとするような危うい表情に切り替わったり、大自然の中に馴染んでいたかと思うと、いきなり都会的なモードを漂わせてきたり……。
「衣装、メイク、そして、この撮影地、写真家の田尾沙織さん――今回の写真集は、僕にとってベストな環境を整えていただいたと思います。仕事の中でも、外に見せる自分と内に秘めた自分は違う。でも、どうして、ここまで僕のことを、また僕がいま出していくべきこと、いきたいことを、周りの方々がわかっていてくださったのか、それには驚きました。俳優の仕事を始めてから1年と少し、どこまで本当の自分を表現するのか、ずっと悩んできたのですが、この写真集は、それに対するひとつの答えを出してくれたような気がします」
【後編につづく】
取材・文=河村道子 写真=内海裕之