魔法少女にしてしまったのは、史上最凶のヤンキーだった…『間違った子を魔法少女にしてしまった』制作秘話
公開日:2018/3/24
宇宙の平和を守るために「魔法少女」の力を与えられた女の子は、何と史上最凶のヤンキーだった……。開幕からアクセル全開で始まる『間違った子を魔法少女にしてしまった』は、双龍さんがくらげバンチ(新潮社)で連載中のWEBコミックだ。現在累計発行部数30万部で、3月9日に第3巻が発売された。
「魔法少女」と聞くと、真面目で清純、品行方正などの言葉がよく似合う。本作で魔法少女の宿命を背負うことになったヒロインの真風羽華代(まじば・かよ)も、一見するとツインテールが似合う美少女。ところが第1話の開幕から「ダリィ」「バカセンコー」と悪態をつきながらタバコをふかし、素行不良ぶりを見せつける。宇宙を守ってほしいと魔法少女の力を与えたミュ(マスコット的生物)すら、あまりの恐怖で敬語になる始末だ。
ところがいざ戦闘が始まると、この華代、じゃなくて華代様がとにかく強い。地球侵略に来たアタスンモと呼ばれる敵たちを見敵必殺(サーチ・アンド・デストロイ)、自己紹介も終わらぬうちに純粋な「腕力のみ」で瞬殺してしまう。魔法少女とはいったい……。
双龍さんは『マチマホ』で、創作物における「魔法少女」のルールを踏襲しつつ、あえて破ることで作品の独自性を打ち出そうとしている。インタビューでは、連載に至る経緯から『マチマホ』の作り方まで、多彩な話題について聞き出してみた。
■「タバコを吸う魔法少女」は1枚のイラストから生まれた
――1話目から型破りな展開に驚かされる『間違った子を魔法少女にしてしまった』(以下、マチマホ)ですが、どのような経緯で生まれたのでしょうか?
双龍:もともとは僕がTwitterで何気なく趣味で描いた一枚のイラストがキッカケです。魔法のステッキを棒きれみたく雑に扱いながら、タバコを吸う魔法少女を描きまして(笑)。
――「魔法少女がタバコを吸う」というアイデアはどこから?
双龍:そのイラストを描く少し前、Twitterに投稿した2枚のタバコの写真がきっかけでした。1枚目にタバコの空箱を、2枚目に新しい箱を同じ場所に置いた写真を載せて、吸い終わったタバコが永久機関で復活したみたいな。それを見た方から「魔法少女みたいですね」とリプがあったんです。それで「タバコを吸う魔法少女」って面白いなと思ったんです。
――誰も思いつかないようなテーマでした(笑)。
双龍:僕も『魔法使いサリー』からはじまって『プリキュア』シリーズとか『美少女戦士セーラームーン』とか、古今東西ある「魔法少女もの」はたくさん観てきましたが、こういった作品ってある種の不文律がありますよね。変身をしたり、ヒロインの隣にマスコットがいたり、別の世界を守る宿命を背負わされたり、主人公が未成年で清純そうな女の子だったり、変身するとコスプレチックだったり……。魔法少女と聞けばすぐにイメージできる文法が出来上がっていると思います。
――確かにそうですね。
双龍:既存作品を見る時に、どうしてふつうの若い女の子ばかり選ばれるんだろう、なぜ敵は最初から奥の手を使わずに、雑魚ばかり送り込んでくるんだろうと、斜めの視点で見ることが多かったんです。序盤こそ魔法少女になったばかりの主人公を倒すチャンスなのに、あえてしない。敵なのに優しいねって。そこはタブーというか様式美だと思うのでツッコむのは無粋ですが、だったら安心してツッコめる魔法少女の世界を自分が描いてしまおうと思いまして(笑)。
■華代の行動にはちゃんとルールがある
――誰もがツッコめる魔法少女。
双龍:誰もやっていないような魔法少女を描いて、全部ぶち壊しちゃおうと思ったのが『マチマホ』です。でも、魔法少女という型を破るには、きちんと型を描けないといけないので、定番のモチーフやキーワードや展開を入れて説得力を持たせるように意識しています。得体の知れない敵が出てきて、なんだかんだ工夫したり仲間と協力したりして倒す。そしたら次はもう少し強い敵が出てきて、みたいな。『マチマホ』で同じことをやると、華代がすぐに倒しちゃいます(笑)。
――華代様はどんな強敵も魔法を使わず物理攻撃で瞬殺、しかも変身しないことすらある。そこで生まれるギャップが『マチマホ』の魅力だと思います。その落差はどこまで意識的に入れていますか?
双龍:あまり意識して考えてはいません。敵が出てきた次のコマで華代が倒しちゃったとしても、「華代ならそうなる」というだけで、その様子をありのまま描いています。
――もう少し具体的に教えていただけますか?
双龍:たとえば第2話で、「アタスンモから宇宙の征服を止めてくれ」と頼んだミュをいきなり壁に打ち付けるシーンがあるんです。一見すると「魔法少女なら宇宙を守って当然」という一方的な話に怒っている印象を受けるけど、次のページを読むと「あたし 真風羽華代 あんたは?」って自己紹介をしています。つまり、ミュが最初に名乗らなかったことに怒っているんです。実際にミュの仲間のミャが登場したときは、ちゃんと自己紹介をしたので何事もありませんでした。
――言われてみれば確かにそうですね。
双龍:他にも「肩に軽く当たって詫びいれずに消えたから」という理由で雅二戸霊(まさにど・れい)という不良を殴りに行くエピソードがあるんですけど、雅二戸は土下座をしながら「彼女が怒っている理由」も明らかにして誠心誠意謝ったおかげで許されるんです(笑)。華代はただの暴力的キャラクターではなく、筋が通っていなかったり理不尽なものに対して怒ります。
――華代様の行動にはちゃんと道理があって、それがストーリーを作っている。
双龍:そうですね。僕がマンガを描くとき、まずキャラクターのことを考えます。そのキャラクターがどういう見た目でどういう性格をしているか、骨格が出来ていればそのキャラの生い立ちや生き様もイメージできます。あとはそのキャラクターのどの部分をどう見せるかなので、ストーリーを考えるのはそこまで苦労していないと思います。
■エピソードのオチはすべてを壊す華代の役目
――3月9日に第3巻が発売になりましたが、物語の状況としては?
双龍:2巻までは華代のライバルとして登場した秀斎奈子との決着を中心に描いていて、3巻からは3人目の魔法少女との新たなバトルが描かれています。ただ、先のことはあんまり決めてはいないんですよ。ストーリーを組み立てているうちに色々な設定が出来てきて、そこを掘り下げていくうちに別のアイデアが生まれて来ることが多いので。
――まだまだ全然続けられそうな勢いですね。
双龍:個人的には打ち切る気がないですから(笑)、そのために1巻から後に活かせそうな伏線を盛り込んでいます。巻数がつづくことで「あのシーンって実はそうだったんだ」ってちゃんとわかるようなマンガにはしたいです。
――今後の展開も楽しみにしてます。うっかりアニメ化したらいかがですか?
双龍:うっかりアニメ化してもらえるように頑張ります(笑)。
取材・文=小松良介
(C)双龍/新潮社