「しゃあないやん。水飲んでも肥るねんから」哲学者より達観「大阪のおばちゃん」7つの格言
更新日:2018/3/27
もはや全国に知れ渡った「大阪のおばちゃん」という存在。キラリと光るワードセンスを武器に矢継ぎ早にしゃべる姿は、メディアに映るたび、見た者の脳裏に焼き付く。彼女たちは感情的に生きているが、人として極太の芯が1本通っているので、どんなときもブレない。何も考えていないようで、人生経験が豊富なので、ときたま金言を放つ。そして、しぶとい。色々な意味でしぶとい。世知辛い現代を生きていく上で理想的な能力を備えているのだ。人類の完全体と言っていいだろう。
『大阪のおばちゃんの人生が変わるすごい格言100』(森綾/ SBクリエイティブ)では、そんな大阪のおばちゃんをリスペクトして、人生に悩んだとき思い出したい言葉を紹介している。そう、時にニーチェより鋭く、時にガンジーより慈悲深く、時にソクラテスより達観した彼女たちの100の言葉、いや、100の格言を紹介しているのだ。
■しゃあないやん。水飲んでも肥るねんから
これは肥って(ふとって)いるおばちゃんが「肥ってんなー」と誰かに責められたとき、苦し紛れに言うセリフだ。パートナーや友達、もしくは心ない誰かに「太っていますね」と言われたときは、「本当に何も食べてません。水を飲んでも太る体質です!」と逆ギレしよう。きっと誰もあなたを責めなくなるはずだ。
■眠たいんか
うだうだとはっきりしない言い訳や説明、御託を並べる男性を黙らせる言葉。スナックのカウンターで酔っ払ってくだを巻く男にママが言うセリフでもある。甲斐性なしの夫やムカつく上司に使ってみよう。ただ、かなりキツい言葉でもあるので、黙らせた後の副作用に注意。
■自分でしな。ごはんは人によそってもらわなあかん
昭和の時代、自分でご飯のお代わりをよそおうとすると、こう言われた大阪人が多い。「手酌をすると出世しない」という言葉に似ていて、根本的に食べ物は、天から、他者から、ありがたく恵まれるという思想に基づいている。ちなみに「しな」とは「しなさんな」の略。
■生きている限りはまっすぐ歩いてもらわんと困る
地下鉄の無料パスを手にする年齢になったおばちゃん同士で交わされる言葉。自分はさておき、弱ってきた伴侶に対する指摘であることが多い。本書でこれ以上の解説はされていないが、なぜか含蓄のある言葉に感じる。あんたはそんな子でないはずや、後ろめたいことせんと、胸張って生きや。そんなメッセージに思えてならない。
■しゃあない。なんかの因縁や
不幸を受け入れる言葉。こんなことになってしまったのは、故意にそうしようとしたのではなく、自然となってしまったのだ、と自分に言い聞かせる考え方だ。ここで受け入れておくことで、将来的にまたいいことがあるだろうという期待も込められている。
■なるようにしかならへんて
フランス語でいう「ケ・セラ・セラ」と全く同じ意味。大阪人にあっけらかんとした人柄が多い理由は、この言葉と思想を人生観の奥底に敷いていることが多いからだ。
以上、本書より「大阪のおばちゃん」の6つの格言をご紹介した。この他「一服のほうが多いな」「一緒に謝ったるから」「かまへんかまへん」など、残り94の言葉とともに含蓄ある思想が紹介されており、本書を読むことで「楽観主義の権化」と思われがちな彼女たちの深みのある一面を知ることができる。
さて、ここからは京都府出身の筆者が知っている「大阪のおばちゃん」のイチオシの言葉をご紹介しよう。本書には載っていないので、読者は関西特有の文化「知らんけど」スタイルで読み進めてほしい。
■別にええねんけどな
これは言葉通り、「別に大丈夫だけどね」という意味だ。ただし用法がある。例えば誰かに苦言を呈した後、その険悪な雰囲気や事の重大性を和らげるために使う。
「あんたな、台所の食器洗って言うたやん!……別にええねんけどな」
場の雰囲気を大切にするおばちゃんの優しさあふれる言葉なのだ。ただ、話の頭にくることもある。
「別にええねんけどな、あんたな、台所の食器洗って言うたやん!」
「先にマイナスな雰囲気を和らげる言葉を投げる必要がある」という観点より、前者より後者のほうが怒りの度合いが大きいと考えられる。こういうときは言い訳せず素直に謝るのがベター。ちなみに、話の至るところで「別にええねんけどな」を使い始めた場合、感情を必死に抑えている可能性があるので、いち早く謝るか、一目散に逃げるかがベター。
また、「違うねん、別にええねんけどな」という高等テクニックも存在する。
「やから俺は勉強で忙しいから食器なんて洗えへんって言うたやんか!」
「それは聞いたけど、違うねん、別にええねんけどな、これくらいなら洗ってくれたっていいやんか。3分あればできるやん」
これを標準語に訳すと「それは聞いたけれど、私にも言い分があって、別に洗わなくて大丈夫だけど、これくらいならしてくれてもいいでしょ。3分あればできることじゃん」となる。「違うねんの部分が標準語訳としておかしい」という指摘が飛んできそうだが、それを解説し始めると5000字は要するので、このあたりで記事を終わりにしたい。
文=いのうえゆきひろ