内田百閒、川上未映子、谷崎潤一郎、夢野久作…。「片付け」にまつわる32のエッセイ
公開日:2018/4/1
片付けという行為に、人生観を感じてしまうのは私だけだろうか。とくに自宅、そこにはその人らしさが滲み出ているように感じる。片付けによって完成されるものは、その人の理想とする「生」なのではないだろうか。
世の中にはありとあらゆる「片づけ本」が存在する。近頃は、「ていねいな暮らし」が主流だ。モノを持たない暮らし。一汁一菜のていねいな食事。そういった風潮は、一時代前の「清貧」に通じるものがあるように感じる。
私も人並みには片付け本を参考にし、生活を見つめ直すといった行動を取るのだが、たまに、それを窮屈に感じることがある。一言でいうと、どれも、良くも悪くもちょっと極端。ライフスタイルはまさに十人十色で、こう、もっと「その人」が滲み出ている方が落ち着くようにも感じるからだ。
そんなことを感じていた私が出会った1冊の「片付け本」を本日はご紹介したい。『片づけたい』(河出書房新社)だ。先に断っておくと、これはシンクの磨き方とか、断捨離のテクニックとか、そんな知識をメインに扱った一般的な「片付け本」とは違う。なにしろエッセイ集なのだから。
片付けベタの苦悩、別れがたき思い出の品、掃除道具へのこだわり…。“片付け”には、その人の生き方が表れる。そんな全32篇のエッセイが心地良い。各篇の著者は内田百閒、川上未映子、ジェーン・スー、澁澤龍彦、島崎藤村、谷崎潤一郎、向田邦子、夢野久作など、今昔の文壇を語る上では外せない作家、エッセイスト、コラムニストたち32人。
近年の「ていねいな暮らし」に対する考察。一貫性のない自身の生活。その対比を綴りながら、「ていねいな暮らしは、他の人に任せます」と結ぶジェーン・スーさんの「ていねいな暮らしオブセッション」から幕が上がる本書。
澁澤龍彦の「過ぎにしかた恋しきもの」では、胸にしまっておく「過ぎにしかた恋しきもの」は、単なる個人的な思い出ではなく、なにか抽象的な、永遠を感じさせるものでなければならないような気がすると綴られ、話は清少納言が季節や自然から汲み取った「永遠のノスタルジア」へと向かう。「片付け」という概念は、実に幅広いものだったのだと思い直す。「片付け」の対象がマテリアルだとは限らない。今まで自身が生きてきた中で生まれた物事すべて、「片付け」の世界は奥深く、文学的だ。
読書好きの方であれば、本書の32名の著者の中に、贔屓の作家も複数名含まれていることだろう。各人のエッセイからは、その作家の人生観がじわじわと滲み出ている。「やっぱり、この人ならそう出てくるだろうな」などと読みながらにやりとするエッセイもあれば、その作家に対する個人的なイメージを変えさせられるような、意外な一面がきらりと光るものもある。
繰り返しになるが、片付けとはその人が表れる行為だ。少なくとも、私はそう思っている。本書は一見すると、実用から離れた文芸書のように感じられるかもしれないが、かなり実用的な本なのではないかと私は感じる。なぜならば、本書のエッセイを緩やかに読み進めていく内に、一層深い部分、内面の部分で自分の人生観が整理されていくからである。その感覚はまさに「片付け」だ。
外から学ぶ片づけテクニックも悪くはないが、まずは自分の内面を片づけることが大事なのかもしれないと、私は本書に学ばされた。自身を片付けることによって、生活も心地良いものになるのではないだろうか。生活感がある部屋、ない部屋。統一感のある家具に囲まれた生活、海外の土産物屋のような雑多な空間での生活。どんな暮らしでも、その人の人生観とマッチしていれば、案外心地が良いものなのかもしれない。
文=K(稲)
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