0から学ぶ! 教養の達人・出口治明の“世界目線”で考える「日本史」講義
更新日:2018/4/12
「アメリカがくしゃみをすると日本が風邪をひく」とよく言われるが、現在の日本はアメリカをはじめとする国際社会との関係なしには成り立たない…はずなのだが、ひとたび「日本史」といわれる領域に目を向けてみると、国際社会が関係するのは幕末「開国」以降と考える人が圧倒的なのではないだろうか。「いやいや、遣唐使とか元寇とかあったし」といっても、それらを考える目線はあくまで日本主体。相手(唐とか元とか)のお国事情や国際社会のメカニズムを俯瞰した上での認識にはなかなか至らない。
だが歴史を「世界目線」でひもとけば、日本という国は常に諸外国との関係の上でなんとかやってきた国だった――『0から学ぶ「日本史」講義 古代編』(出口治明/文藝春秋)は、そんな日本史への新しい視点を教えてくれる新鮮な一冊だ。
著者は立命館アジア太平洋大学学長の出口治明氏。かねがねビジネスの最前線に身を置きながら、世界史についてベストセラー本を多数出してきた教養の達人だ。長く「『日本史』というものはない。日本の歴史は世界の歴史とつながっており、そこだけ切り出すことはできない」と語ってきた氏は、「世界とつながるこの地域の歴史ならある」との観点で『週刊文春』で連載を開始。この本はそれをまとめた第一弾であり、テンポも小気味好く、とにかくわかりやすいのがいい。
本書の始まりは、なんと古代も古代の地球誕生から。かなり壮大なスケールだが、世界目線で俯瞰すればそれもありだろう。食料となるゾウやシカを追って地続きだった大陸から日本に人が渡ってきたのはおよそ3.8万年前。「日本人は単一民族」という人がいるが、アフリカで生まれた人類がアジアのさまざまな地域を経由して日本列島に流入してきたのが現日本人であることは、DNA解析からも明らか。ちなみに中国・韓国の人々のDNAより、沖縄をのぞく日本列島の人々のほうが遺伝子の多様性もあるらしい。
そして歴史時代に入ると、なおさら世界史的俯瞰、特に当時の日本よりずっと進んでいた中国、そして朝鮮半島の視点は欠かせない。「朝鮮あたりの海の先には、倭人というのがいる」「小さい国に分かれてケンカしている」というニュアンスで日本が歴史の舞台に初めて登場するのも、1世紀頃に中国で編まれた『「漢書」地理志』からだ。当時の倭人は巨大な漢帝国にせっせと朝貢し、漢からもらった高価なご褒美を配下にわけあたえて紐帯を強めていったが、漢帝国が崩壊すると「そろそろ独立しても大丈夫だろう」と複数の王権が確立。中国が三国に分かれて争い始めると日本では前方後円墳が盛んに作られたが、それも「ぼやぼやしてると倭もまきこまれる。統一政権を象徴するでかい墓を作ろう」ということだったと考えられる。
ヤマト政権成立後も大陸との関係は政を左右し続ける。たとえば仏教伝来もそのひとつ。当時の中国では「仏教によって国を治める」という国家仏教が信奉されており、日本にとっては先進国が奉じる新しい国家統治の考え方そのもの。そこには高度な知識や土木などの技術も含まれ、「もう古墳じゃない。受け入れた方が得」と、時の政権は考えたのだろう。「開明的なポジションの方が、経済が成長します」との本書の見立てはもっともだ。
巷では「日本スゴイ論」がもてはやされる向きもあるが、世界との関係から歴史を俯瞰すれば、日本が決して「孤高の存在」であったわけではないことがよくわかる。実際、現在と驚くほど似たような綱引きが諸外国と行われていたし、思わず「歴史は繰り返す」とつぶやかずにはいられない。ひとまず本書で語られるのは平安末期の摂関政治の終焉まで。この先の日本はどう揺れたのか、早くも講義の続きが楽しみだ。
文=荒井理恵