私たちの食卓が変わる!? 2025年農業ビジネスの未来像とは

社会

公開日:2018/4/4

『2025年 日本の農業ビジネス』(21世紀政策研究所/講談社)

 2015年から2030年にかけて、農家の総数は7割減、稲作農家に至っては9割減となるという。

 この先わずか15年の間に凄まじい勢いで農家が減っていくというデータを提示するのは今日紹介する『2025年 日本の農業ビジネス』(21世紀政策研究所/講談社)だ。
 農家が減ると言われても自分の問題としてピンとこないかもしれないが、私たちが毎日食べている米も肉も野菜も、農作物であることを忘れてはいけない。

 本書では、農業だけでなくさまざまな分野の研究者やジャーナリストが、日本の農業を取り巻く状況を明らかにし、農業ビジネスの未来を多角的に論じている。農家減少は一見すると危機的な状況だが、日本の農業ビジネスが成長産業に生まれ変わるチャンスでもあるという。

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■「保護される」から「攻めて出る」農業へ

 農家が減ったら、農作物が値上がりして私たちの生活に影響するのでは? と心配する人も多いだろう。しかし、現在農家数が減少している実態は、小規模農家が減少して、一部農家の大規模化するという流れの一部に過ぎないのだという。
 本書では、農業ビジネスの成長要素を9つに分類し、目指すべき方向性を示している。それらは「生産性を高める技術向上」「独自の販売経路の確保」「流通や飲食産業との提携」などの観点だ。
 小規模な農家にとってこれらを一手に担うことは困難であり、加えて昨今の異常気象や従事者の高齢化など、周辺問題から廃業に追い込まれているという現実がある。

 しかし、これまで施行されてきた農業関連の法規制は「小規模農家の保護」に偏っており、農業の大規模化を阻んでいるため実態に即していない。そこで、現在では国が主導する国家戦略特区を設け、一部の法規制を緩和し、農業を大規模化する動きが始まっているという。
 本書は、今後、情報や科学技術を駆使して、生産、販売について多角的に取り組める「大規模な農業経営体」が主流となっていくことが、日本の農業全体の成長に欠かせないとみている。

■世界でも通用する日本の農産品を!

 海外からの輸入品が日本の農業の脅威だといわれているが、日本の農業品は外国産と比較して決して「弱い」わけではない。品質の高い米、小麦、牛肉、豚肉など、世界で十分に戦える産品は数多いという。
 特に牛肉の市場競争力は強く、ブランド化などのマーケティングや、冷凍品が主流の外国産肉に対して鮮度の高い冷蔵肉で対抗している流通の技術をいかして勝ち抜いているという事例がわかりやすく挙げられている。
 今後、人口減少が予想されている日本国内だけにとどまらず、諸外国への輸出に力を入れていくことも、農業ビジネスの成長の課題だ。

 また、味や見た目のよい日本産の農作物は、すでにアジア諸国の富裕層を中心に人気が高く、高値で取り引きされている。しかし高級品のみでは消費拡充に限界があるため、今後は品質を維持しながらコストを抑えた「中級ブランド品」の確立が鍵となるという。

 本書は、大きな転換期を迎えている日本の農業について、データ、法規制、国際情勢などの幅広い視野で論じているが、「農業と食」とが不可分で、私たちの生活に密着した課題であるという視点も忘れていない。
 日々の食卓を支える身近な課題として、ぜひ触れてほしい一冊だ。

文=鋼 みね