つんく♂ 絶賛! 誰も観察者のままではいられない、朝井流社会派エンタメの傑作『武道館』が文庫化!

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公開日:2018/4/4

『武道館(文春文庫)』(朝井リョウ/文藝春秋)

 平成生まれ初の直木賞作家・朝井リョウが、アイドルを題材に書き上げた長編小説『武道館(文春文庫)』(文藝春秋)。架空の女性アイドルグループ「NEXT YOU」が武道館ライブを目指しステップアップしていくさまを、青春群像ストーリーとして描き出す――。その過程で、「恋愛禁止」「スルースキル」「握手会商法」「煽り耐性」など、現代アイドルの誕生と共に生まれてきた言葉の特殊性が記述され、彼女達が背負わされているものの社会的意味を探っていく。朝井流「社会派エンタメ」が本格始動することとなった、転換点となる傑作だ。

 単行本刊行から9ヶ月半で連続ドラマ化され、文芸読者のみならず、現役アイドルやアイドルオタク達の間でも話題沸騰となった本作が、この春文庫化された。巻末の解説を寄稿したのは、「モーニング娘。」および「ハロー!プロジェクト」の総合プロデュースを長らく務めてきた、つんく♂だ(ドラマ版『武道館』では主題歌の作詞作曲を担当)。解説はこれぞ本作の真髄、と感じられる指摘ばかり。例えば――。

『武道館』では、単身のアイドルとして主人公・愛子を描くのではなく、グループの中のひとりとして描いていますね。そこが面白い。日本のグループの良さって、ある程度の人数だから生まれてくる雰囲気がよいのだと思います。/日本人は他人と同じことをすることを大きく問題視しないし、逆に違うことをする他人に対して「なんであんただけ違うことできると思ってるの!」と小姑化することも問題なくできるので、集団で行動するときに、ある程度の期間、緊張を保つことに優れています。これは近隣他国ではなかなか出来ない部分です。

 また、アイドルは「成り代わり」である、という指摘には膝を打った。

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『武道館』では、アイドルに対峙するファンの姿も描かれています。それが、また面白いと思う。/昔とは違って、今のアイドルは自分の投影でもあり、自分には出来ないことをがんばってる子でもあり(だからやっぱり自分の成り代わりでもある)、だから応援したくなるんでしょうね)。

 今引用した2カ所が、『武道館』について語りながらもつんく♂自身のアイドル論、日本人論、現代社会論となっている点に注目したい。実はそれこそが、本作の大きな魅力なのだ。読めば必ず、何かを語り出したくなる。エンターテインメントの衣をまといながら切実に描かれていく少女達の葛藤、その果てに彼女達が得た言葉や倫理観を前にして、誰も他人事ではいられないし観察者のままではいられない……いや、いさせない。あなたはどうなんだ、何を考えているんだ、今どんな問題を抱えこれから何を選ぼうとしているのかと、この小説は問いかけてくる。

 単行本刊行から3年経った今も、内容の鮮度がまったく落ちていない、という事実も付け加えておきたい。そして、「予言」が「実現」したという事実も。エピローグで描き出される光景は、今年1月にとあるアイドルグループの名古屋コンサートで起こった歴史的サプライズそのものなのだ。ファンならば当然の「願い」であり「祈り」だったと、作家本人はきっと言うだろうけれど。

文=吉田大助