『こんにちは』詩人・谷川俊太郎が書いた。撮られた。詠んだ。答えた。ちいさな本とは?

文芸・カルチャー

更新日:2018/4/11

『こんにちは』(谷川俊太郎/ナナロク社)

 日本人で谷川俊太郎という偉大な詩人を知らない人はいないだろう。国語の教科書や童謡や絵本など、私たちの身近な日常に谷川氏の作品は寄り添っている。

 『こんにちは』(谷川俊太郎/ナナロク社)は、代表作から初公開の詩や短歌まで網羅され、赤、黄、緑と本の表紙の色が3種類あり、どの色にするか購入するときに選ぶのも楽しみだ。

 美しい装丁で評判の「ナナロク社」が手がけているので、全体の一部分だけ水色の紙となっていたり、展覧会のリーフレットなどが本の間に挟まれていたりと、谷川氏の世界観をより濃密に体験できる仕掛けがほどこされている。凝ったデザインや紙質へのこだわりに、ページをめくるのが楽しく、本棚にいつまでも置いておきたくなる。

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 谷川氏の公式ホームページ「谷川俊太郎.com」のために撮影した写真と本書のための撮り下ろしの写真が使用されており、新世代の写真家として活躍する川島小鳥さんが、6年間にわたり公園や旅先で谷川氏を切り取っている。

 顔にはその人の人生が出るというが、谷川氏の表情は穏やかで優しく、飄々としていながらも好奇心に満ちていて、どこか少年のようないたずらっぽさも持っている。自分の人生を存分に楽しんできたのがわかる顔つきだ。

「二十億光年の孤独」「朝のリレー」「芝生」など、谷川節とも呼べる定番の詩の味わい深さは言わずもがな。他の詩や短歌も日常に滲み出る繊細な心の動きの捉え方に思わずはっとさせられる。

 谷川氏が撮影した写真も数多く、谷川氏の身の回りの日用品……古い時計やラジオ、世界を旅した時に購入した民芸品など、ノスタルジックなものたちは、おそらく、谷川氏が詩作する際のイメージとしているのだろう。ラジオから流れる音楽を聴いて詩を書いているのかな、などとファンならずとも谷川氏をひもとくうえで貴重な資料となるだろう。

 御年86となる谷川氏の作品群のなかでも、集大成ともいえる一冊。ロマンチックな気持ちに浸りたいときや大切な人へのプレゼントにもオススメだ。

文=長祖久美子