世代や地域によって「通じない日本語」はどうして生まれるのか?
公開日:2018/4/16
20歳前後の若者の反応を見ていると、もはや「ディスる」という言葉も古さを帯びてきているような気がする。「ナウい」なんてもってのほか。即、おっさん認定がなされる。
世代間におけるコミュニケーション障害は昔からある。これは、例えば略語にも表れる。
『通じない日本語:世代差・地域差からみる言葉の不思議(平凡社新書)』(窪薗晴夫/平凡社)によると、略語は日本語の歴史をさかのぼると、室町時代くらいには見ることができる。
そもそも、略語が用いられるのは、省エネが目的だ。使用頻度が高い語ほど、省エネ効果が高い。世代ごとによく使われる語が違うため、略語の理解でコミュニケーションの齟齬が生じやすいのは当然なのだ。
大人 ポルノ(グラフィー)
子供 ポルノ(グラフィティ)
マクドナルドでハンバーガーを買いたい若者が「マクっていいですか?」と聞くと、中高年は「何を捲るのか?」と疑問に思う。中高年が「半ドン」と言うと、若者は丼飯の一種かと誤解する。
本書は、世代間ギャップが生まれる一つの要因が、日夜作り出される新しい略語だとしている。
しかし、先述したとおり、略語は古くから存在し、その略し方にも一定のルールがある。ルールがわかれば、略語を通じて、異なる世代の姿を知る手がかりになるかもしれない。
(ルール:語頭を残す)
・事故を起こす → ジコる
・サボタージュする → サボる
語頭を残すことで、元の語が何であるかが想起しやすい。世界中で見られ、例えば英語では、exam(ination)(試験)、prof(essor)(教授)ほか、多数挙げられる。
この規則を逆手にとり、語末を残したため元の語が想起しにくい隠語もある。
・アルバイト → バイト
・ヘルメット → メット
・麻薬 → ヤク
(ルール:2モーラ)
モーラとは語の長さを数える音の単位。日本語では仮名文字1つが1モーラに対応する(ただし、「きゃ、きゅ、きょ、ちゃ、ちゅ、ちょ」のような小さな「ゃゅょ」は例外で1モーラと数えない)。略語の多くは、語頭から2モーラを取るというルールがある。
・マクる
・キモい(キショい)
本書によると、日本語は2モーラが基本的な発音の単位だとされている。私たちの身近に、2モーラ(または2モーラ以上)の長さにまとめようとする現象が様々見られる。
・曜日…月、火(かー)、水、木、金、土(どー)、日
・十二支…子(ねー)、丑、寅、卯(うー)、辰、巳(みー)、午、未 、申、酉、戌、亥(いー)
・電話番号…03-25(にーごー)7-255(にーごーごー)1
また、関西弁では「手」や「毛」のような1モーラ語をアクセント(音の高低)で区別しながら2モーラの長さに発音している例がある。
・手(テー※)※は斜め上への矢印
・血(チー→)
・毛(ケー※※)※※は斜め下への矢印
このルールでややこしいのは、2モーラ目に撥音(ん)や促音(っ)がくる場合だ。
・ウットい
・メンドい
撥音や促音、さらに長音などは自立性が低い音のため、3モーラ目まで残りやすいという。
このように、3モーラ以上の長さの語は、2モーラに縮められる。人名も同様だ。
・野村 → ノムさん
・鈴木さん → スー(さん)
「デジタルカメラ=デジタル+カメラ」のような複合語は、各要素の頭の2モーラずつを組み合わせる。
・デジカメ
こう考えると、いまどきの若者が使う略語も、なんとなく元の語が見えてくるのではないだろうか。
・おまいう(お前がそれを言う!?)
・リアタイ(リアルタイム)
・ジワる(ジワジワくる)
・ぐうカワ(ぐうの音も出ないほどカワイイ)
・ズッ友(ずっと友達でいよう)
本書は、世代差・地域差の観点から、日本語の多様性を掘り下げている。日本は海外から人や文化が入ってくる前から多文化共生社会であり、異文化理解は母語から始められるとしている。
文=ルートつつみ