「人からすすめられた本は読まない」 人気作家が語る驚きの読書論
公開日:2018/4/16
あなたは何をもとに本を選んでいるだろうか。TVや雑誌での紹介、友人やレビューサイトでの評判、書店で表紙にピンときた…などなど。私は直感で選ぶときもあれば、「話題になったものは読んでおかなくては!」という日本人的感覚が作用して、つい買い過ぎてしまうこともある。本好きにとって、本を選ぶという行為は、実際に本を読んでいる瞬間にも匹敵する至福の時間だ。本書『読書の価値』(森博嗣/NHK出版)では、そんな“本選び”に一石を投じる、著者ならではの読書論が展開されている。
僕は、特定の人に本をすすめない。自分が書いた本でさえすすめたことは一度もない。また逆に、人から本をすすめられることも嫌いだ。紹介されたりすると、95%以上の確率で読まない。本は、自分で選び、自分で手に入れるものだという意識が強すぎるのだろう。(本書220ページより)
著者は、『すべてがFになる』や『スカイ・クロラ』で知られる森博嗣氏。本書は、彼のこれまでの読書体験をもとに、その理知的で直截な文章によって、“読書”という行為の本質に迫っている。
■本は人と同じような存在である
そもそも、人はなぜ本を読むのか。著者によれば、それは人が他人と話す理由と同じだという。社会には、自分ひとりがいるのではなく、周りにたくさんの人間がいる。その中で他者とコミュニケーションをとることは、自分では考えたり経験したりできないことを疑似的に体験することだ。それを文字に代えたもの——それが本だというわけだ。
■本はすすめられて読むものではない
本と人とは同じような存在であるから、“本選び”も人選びと同じようにせよ、というのが著者の論である。友人を選ぶとき、誰かに意見を聞いたり、推薦されてその中から選んだりしても、良い友達はできないだろう。私たちは、個人の感覚で「自分に合いそう」だとか、「一緒にいておもしろそう」という判断を行い、最終的には誰と付き合うかを自分で決めている。それと同様に、やはり本も自分で選んでこそ、より深い読書体験が得られるという。
■ベストセラーを避けるべき理由
著者は、「一般には理解されないと想像する」とことわった上で、ベストセラー以外の本に目を向けることの大切さを語っている。他人と違う本を読むことで、自分がそこから得た知識の価値が相対的に高まるというのだ。確かに、特にノンフィクションの本であれば、大多数の人が知らない知識を身に着けることが他の人間との“差”になり、それが新しい発想のタネになることもあるだろう。
本書は、このような本にまつわる議論に加え、森博嗣氏の読書遍歴を記したエッセイとしての側面もある。中学生のころから海外推理小説に傾倒していたことや、高校生で萩尾望都氏の『ポーの一族』に衝撃を受けたことなどが語られており、これはファンならば目が離せない。
今の時代、ネット上には、本にまつわるランキングやレビューがあふれており、いたるところで、たくさんの人に向けて本を“おすすめ”している。しかし、実際に本を読むのはあなただ。ランキングやレビューは、あくまで本を知るための“きっかけ”であり、最後には自分の感覚で読む本を決めることが大切である。そして、私は、「なんとなく読書をしてるけど、その意味をきちんと考えてみたい!」という人や、「本を読みたいと思ってるのに、どんな本を読めばいいかわからない…」という人に、たとえ著者に何と言われようとも、この本を“おすすめ”したいのだ。
文=中川 凌