仕事で悩む全てのビジネスマンへ——大人が共感できる少年マンガ『左ききのエレン』の魅力
更新日:2018/5/1
少年マンガは、少年たちのためだけのマンガではない。その大きな魅力のひとつは、強い敵や困難な目標に全力で立ち向かう、登場人物たちのアツい生き様だろう。それは大人になった私たちにも、明日の仕事への希望と活力を与えてくれる。
しかし、少年マンガの主人公は中学生や高校生が多く、「大人になると共感できなくなる」という人もいるはずだ。そんな人におすすめしたいのは、今“大人のための少年マンガ”として人気を博している『左ききのエレン』(かっぴー:原作、nifuni:漫画/集英社)である。現在、『少年ジャンプ+』にてリメイク版が連載されている。
舞台は大手広告代理店、目黒広告社。主人公の朝倉光一は、美大卒の駆け出しのデザイナーだ。彼は、高い採用倍率を潜り抜け、夢を叶えて入社する。しかし、何の実績もない若手の現実は厳しい。コンペ前の徹夜は当たり前で、上司からの理不尽な指示や、営業との対立も日常茶飯事。
本書は、そんな激しすぎる仕事の現場で、主人公が“何者か”になるために奮闘する物語だ。第1章「横浜のバスキア編」では、お菓子メーカーの新製品CMをめぐる競合コンペが壮絶に描かれ、大きな山場となっている。
競合コンペでは、社内の複数の部門が協力してプレゼンに備える。デザイナーである主人公が所属するのは、クリエイティブ部門。クライアントの要望から広告プランを作り上げたり、ロゴやCMのデザインを行う、まさに広告の“クリエイティブ”な部分を担う集団。
それに対して、クライアントである企業と直接やり取りし、信頼関係を構築することで実際に“広告を売る”のが営業の仕事だ。光一たちクリエイティブが「ターゲットに響くおもしろい広告を作りたい」と考えている一方で、営業側は「クライアントが気に入る広告を提案し、競合する他の代理店に勝つ」ことを最優先に考えている。
当然両者の考え方の違いは対立を生み、営業の流川は、「代理店は営業の会社なんだよ」「クリエイティブって言えば何でも許されると思ってる」と、光一に厳しく当たる。そうした営業との溝に苦悩する中、光一は、流川がかつてコピーライターを目指していたことを知る…。
「広告代理店の仕事なんて、自分たちとは別世界だ」と思う人もいるかもしれない。しかし、この競合コンペをめぐるストーリーだけをみても、物語に込められた“働く人たちの普遍的な葛藤”が読み取れるはずだ。思い描いていた社会人生活とのギャップ、協力するべき部署間での思わぬ対立、やりたい仕事と向いている仕事の残酷なまでの違い――。
そんな苦悩を乗り越えて、光一は、クリエイティブと営業、双方が納得する“第3の道”を目指す。だからこそ、この作品は、“大人のための少年マンガ”と呼ばれているのだ。
文=中川 凌