ニート、家を作る!? ねむようこの新作は、リノベーションを通して描く、ボンクラ娘の恋

マンガ

更新日:2018/4/21

『ボンクラボンボンハウス』(ねむようこ/祥伝社)

「午前3時の」シリーズで知られるねむようこの新作『ボンクラボンボンハウス』(祥伝社)は、DIYと恋。カナヅチ、のこぎり、ドリルにハンマー、おおよそ恋愛とは程遠い、むしろ男のロマンあふれる道具に囲まれて、おまけに舞台は埃っぽい作業現場! それでもしっかりドキドキさせてくれて「さすが!」と唸ってしまう。

 大学を勝手に中退した主人公・一樹(かずき)は、親から託された学費の残り200万円を元手に、亡き祖母が遺してくれた家のリノベーションに取り掛かる。200万円は大金だけれど、リノベとなるとさすがに心許ない。足りない分は手を動かせ、幸い一樹にはお金以上に時間がたくさんある。けれど何をしていいかもわからない。そうして「何にもなりたくない アイス食べてマンガ読んでゴロゴロしてたい」を目指す一樹の理想の家作りが始まる。

 親に相談することもなく大学を中退し、それでいて「何にもなりたくない」と言う一樹に、イラッとしてしまう読者もいるだろう。けれども何かをやめることは、何かを始めることと同じように痛みをともなう。自分で立ち止まることだって、文字通り自立への第一歩ではないだろうか。後ろ向きなのか、前向きなのかわからない一樹のキャラクターは、むしろリアリティがあるし、そうやって揺れ動く気持ちがあるからこそ、恋という不確かなものを語る物語の主人公たり得るのかもしれない。

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 そんな一樹への風当たりは強い。彼女が選んだ道は、家族からも、友人からも肯定されず、何より一樹自身、それが正しかったのかを悩み続ける日々。そんななか「中退おめでとう」とただひとり祝福の言葉をかけてくれたのが、美容師の聖大(しょうだい)。独立開業を目指す聖大は、一樹の兄の友人。一樹の家は、1階部分が美容室になっており、そこを貸してほしいと現れたのだ。聖大の言葉は、一樹の心をフッと軽くし、彼女はどんどん聖大に惹かれていく。聖大の美容室のオープンを目指し、リノベのほうも一気に現実味を帯びてくる。

 とにかく優しくて、一樹のことを全肯定してくれるような聖大に対して、一樹にひたすら厳しいのがリノベを取り仕切る元リフォーム屋の栄吉(えいきち)だ。立ち止まった一樹と対照的に、栄吉は動き続けている。家作りが好きで、勤めていたリフォーム屋が倒産したあとも、バイトをしながら住宅に関われる機会をうかがっていた。経済的な理由から進学への道を選べなかった彼からすれば、一樹の行動にいら立ちを覚えるのもわかる。

 リノベが進んでいくうちに、一樹自身の心のありかたも変化していく。当初は立ち止まり、自分を肯定してくれた聖大に惹かれていた一樹だが、家が完成に近づくにつれて、口は悪いけれど、自分を突き動かしてくれる栄吉に知らず知らずのうちに気持ちが動いていってしまう。どうやったってリンクすることがないように思われたDIYと恋が、こんなふうにリンクするなんて!

 一樹と栄吉、ふたりの感情は語られるものの、もうひとりの中心人物である聖大の胸の内はあまり語られていない。「優しい男」は、どんな思いを抱えているのか。彼の気持ちは3人にどんな変化をもたらすのか。すでにある住宅に手を加えていく以上、リノベーションは設計図通りに進まず、行き当たりばったりな部分もあるという。3人の家作りと恋も、どこに行き着くのか、まだその形は見えない。

文=籠生堅太(yomina-hare)