モノに恋をさせ、人を動かす! マーケティングのプロが語るビジネス成功の理由
公開日:2018/4/20
これからのマーケティングに必須となる視点を全解説した『もうモノは売らない 「恋をさせる」マーケティングが人を動かす』(ハビエル・サンチェス・ラメラス:著、岩崎晋也:訳/東洋館出版社)。これはコカ・コーラ社のマーケティング・ディレクターだった著者が、世界的な戦略立案者たちを率いるためにつくったマニュアルをもとにした、いわば最短距離でマーケティングを学ぶための解説書である。
本書が唱えるのは「恋をさせるマーケティング」。
「ビジネスの話に、恋?」と思われるかも知れないが、もしあなたが“いつもの”スーパーへ行って、“いつもの”トイレットペーパーを買うとしたら、その行動は、あなたがそのブランドに「恋」をしているからなのだ。なみいる新製品、競合製品を無視して自動操縦のように、いつもの決まった商品を手に取る行動には、思い当たるところがあるだろう。
■モノを売りつけるのではなく、感情に訴えかける。その方法は?
著者は、コカ・コーラ社は飲料水を販売するビジネスではなく、「ブランドビジネス」を商いとしているのだという。
「ブランドに恋をしている人が増えるほどその価値は高まる。人々は感情にはより高い金額を払うからです」
ここでいう「ブランド」とは、マーケティングというある戦略を使って製品に結びつけられる「価値」であり、それが買う人にさまざまな欲望を生み出す。一度ブランドに恋をしてしまうと反射脳が欲望を支配し始め、棚に並ぶ競合製品を無視して“いつもの”ブランドを買ってしまうという仕組みだ。
マーケター(マーケティングの企画立案をする担当者)は、マーケティングの施策が成功して利益を生み始めても、その活動がブランドへの恋を生んでいるか、消費者と心でつながっているか、狙いどおりのブランド価値を付与しているか、他より優位になるだけのブランドのパワーがあるか、などをつねに自問し続けることが必要だという。そもそもマーケティングとは、モノを単純に売るのでなく、何かしらのコミュニケーションを介して行うビジネス活動だ。コミュニケーションは人の感情脳を刺激して初めて効果を生むが、マーケティングは当然ビジネスの一部なので、合理的であることも必要とされる。従って、その判断は理性脳で行わなければいけない。
本書では、こうした人の脳や感情の作用についても言及しながら、マーケティングを最適化するアプローチについて基礎から説明しているので、初めてマーケティングについて学びたいという人にもわかりやすいだろう。
■モノに恋をさせる秘策をケーススタディで身につけよう
さて、「ブランドへの恋」を生み出すには、恋愛同様に「相手へ語りかけるタイミング」が重要なのだという。本書には恋をプロデュースするための架空のケーススタディも掲載されている。このモデルによると、マーケティング投資に対する長期的なリターンを最大化するには、将来の消費者(今はまだ見えない潜在的な購入客)をターゲットにすべきだという。現在のユーザー(今買ってくれているお客さん)だけに語り続けることは間違っているというのだ。なぜ著者がそう述べるのかについての興味深い答えは、ぜひ本書で見つけてほしい。
意図した感覚や感情をはっきり伝えることができるデザイン(音や香りも含む)は、確実に恋を生む。また、モノと人との間に流れるストーリーづくりも大事だ。「マーケティングにおいて重要なことは、人々が欲しがっているものをそのまま与えることではなく、狙いどおりに感じてもらうことだ。マーケティングは人に恋をさせる、という原則はいつまでも変わらないだろう」と著者は語る。
文=泉ゆりこ