『惡の華』『ぼくは麻理のなか』『血の轍』…押見修造作品に不可欠な“母親”の存在
公開日:2018/4/21
魅力的な女性キャラクターが登場する漫画は数あれど、押見修造先生の描く女ほど、常軌を逸した女キャラがいたでしょうか。いや、いないはずです。
『惡の華』で有名な押見先生は、現在『ビッグコミック スペリオール』で『血の轍』を連載中。そのほかにも、『ハピネス』『ぼくは麻理のなか』など、ヒット作を次々に生み出す人気漫画家なわけですが、ほぼすべての作品に、美しくも狂気に満ちた魅力的な女キャラが登場します。
一見普通なのに、中身が普通ではない。怖いんだけど、気になる! ということで、押見作品に登場するちょっとヤバめな女たちの魅力を、分析していきたいと思います。
●結局、一番業の深い女『惡の華』佐伯さん
押見先生の代表作『惡の華』では、仲村さんという衝撃的なヒロインがいますが、それに負けず劣らずの存在感を示すのが、佐伯さんです。
物語は、主人公の春日高男が、クラスのマドンナである佐伯さんの体操服を盗むところからはじまります。体操服を盗まれ、涙する佐伯さん。盗んだところを仲村さんに目撃された春日。春日と一緒に変態を極めたい仲村さんという、奇妙な三角関係が生まれるのです。
序盤こそ、春日を追い詰める仲村さんの異常行動にヒヤヒヤしながら読みすすめるのですが、やがて読者は気が付きます。仲村さんより、佐伯さんのほうがヤバイのでは? と。
佐伯さんは誰もが認める品行方正な美少女ですが、じつは心の中は常に不安定。春日と仲村の存在に触発され、彼女自身どんどん暴走していきます。結果的に、誰よりもぶっ飛んだ行動をしてしまうのです。初登場時点で、佐伯さんがこんなぶっ飛び少女だなんて、誰が気づいたでしょうか。
可愛いけど、なんか変。優しいんだけど、やっぱり変。佐伯さんのそんな魅力に取り憑かれていきます。
その点、仲村さんは最初から最後までヤバイので、安心感があります。
●大好きすぎて情緒不安定…『ぼくは麻理のなか』依ちゃん
池田エライザ主演で実写ドラマ化された『ぼくは麻理のなか』には、衝撃的な女キャラが何人も登場しますが、ここで推したいのは主人公・麻理のクラスメイトの柿口依(より)ちゃんです。
クラスでも目立たない存在で、友達もいない依は、クラスの人気者である麻理に密かに憧れており、麻理の人気にあやかろうとする取り巻きの女たちを、憎悪しています。
麻理の一番の友達になりたいけど、なれない。近づきたいけど、同じグループにも入れないというジレンマを抱える依を見ていると、自分の小中学校時代を思い出します。こういうグループ闘争みたいなのって、まさに女子あるあるですよね。
紆余曲折を経て、麻理に最も近いポジションを手に入れた依ですが、今度は独占欲やら嫉妬やら自己嫌悪やらでいっぱいになります。憧れの存在が目の前にいるのに自分は不釣り合いだと感じ、萎縮してしまう感じ。まさに女子。
いきなりブチ切れたかと思えば、すぐナイーブになって、落ち込む依。でも、麻理が自分の近くにいてくれることで、心の安定を保ちます。
押見作品には、情緒不安定な女がたくさん登場しますが、その中でも依は割と可愛い部類に入るかもしれません。いろんな異常行動も“麻理が好き”という、純粋な気持ちから来ていると思えば、なんとなく納得できるような気がします。
●最も怖いのは母親という存在『血の轍』
そして、押見先生の最新作『血の轍』。本屋では「最強の毒母!」みたいなアオリ文が掲げられています。その通り、この作品でヤバイのは、主人公のお母さん、静子です。
物語は、母親と息子の何気ない会話からスタートします。道端で死んでいた猫を見つけたときの2人のやり取り。その時点で、母親が異様だということがわかります。「この作品は、このお母さんがヤバイよ!」という自己紹介ではじまるのです。なんという衝撃的な冒頭。
押見作品を語る上で、“母親”の存在は欠かせません。『惡の華』でも『ぼくは麻理のなか』でも、母親は登場し、奇妙な存在感を発揮してきました。しかし、そんな歴代母たちの比ではないくらいに、静子ママはヤバイです。何がどうヤバイかをここで書いてしまうと、ネタバレになってしまうので書けないのですが、最初から現在までずっとヒリヒリさせられます。
きっと、押見先生自身、いつの日か、ヤバイ母親の作品を描きたいと思っていたのでしょう。
静子が抱える闇とは一体何なのか。息子の静一も一緒に堕ちていってしまうのか……。続きが気になります。
4月27日に、最新刊、第3巻が発売されます。1巻から並べて表紙を見てみると、これまたゾッとするので確認してみてください。
ヤバイ女がたくさん登場する押見先生の作品は、とにかくハラハラさせられっぱなしで、胸をえぐるような展開も多々あるのですが、結末は不思議と爽やかです。ヤバイ女たちに出会いたいのであれば、今すぐ、押見ワールドへどうぞ。
文=中村未来(清談社)