会話の「行き詰まり」を解消する方法とは? 実践エクササイズで会話力を磨く

ビジネス

公開日:2018/4/24

『なぜこの人はわかってくれないのか 対立を超える会話の技術』(ジェイソン・ジェイ、ガブリエル・グラント:著、樋口武志:訳/英治出版)

 会話で「行き詰まった」と感じたことはないだろうか。意見が対立した時に着地点が見つからず、納得しないままに会話をあきらめてしまったり、険悪な雰囲気になってしまったり。正しいと信じる意見を相手に理解してもらおうと説明をしたら、反論された、流されてしまった、という経験がある方もいるのでは? 会話がこじれると人間関係に亀裂が生じる可能性もあるし、できればいつもお互いに気持ちよく会話を終えたいものだ。

『なぜこの人はわかってくれないのか 対立を超える会話の技術』(ジェイソン・ジェイ、ガブリエル・グラント:著、樋口武志:訳/英治出版)では、そんな会話の「行き詰まり」を解消し、相手と向き合い、衝突せずに会話をする方法を紹介。「行き詰まり」が生じる原因や状態、それを打破する方法が論理的に説明される一方で、その方法を体得するための31の実践的なエクササイズも収録されている。頭で理解した内容をすぐに実践して、自分の中に落とし込める構成だ。

■会話の「行き詰まり」につながる落とし穴はどこにある?

 本書によれば、会話が行き詰まる時には「落とし穴」があるそう。
 例えば、「これがやるべき正しいことだ」という言い方。確かに、「〜すべき」と言われてしまうと、相手の強い思いを感じて、反論するのをあきらめてしまうかもしれない。本書から具体例を挙げてみよう。

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「私たちは…(より環境に優しい製品を買ったり、リサイクルをしたり、電気を消したり)するべきだ。なぜなら、それはするべき正しいことだからだ」

 正論である。反論の余地はない。でも、電気を消し忘れることもあるし、環境に優しくないと分かっていても便利なプラスチック製品を買うこともある。それが現実だ。とも思ってしまう。

 この発言をした相手に悪気はないだろう。正しいと信じたことを実践するのは簡単ではないし、素晴らしいことだ。しかし、自分にとって正しいことが、相手にとっても100パーセント正しいとは限らない。本書では、この例で生じる代償は、「コミュニティや組織内の多様な価値観に立脚した解決策を生み出すチャンスを失う」ことであると指摘。自分とは違う価値観があることを念頭に置き、相手が意見を述べる余地を残した言い方を心がける必要があるだろう。

■「落とし穴」の中には危険な「エサ」がある?

 会話が行き詰まる時の落とし穴に陥ってしまうのは、そこに「エサ」があるからだそう。そして私たちは、そこから何らかの形で利益を得ている。著者は、エサの基本的な形態を、「正しさ」「善」「揺るぎなさ」「安全性」の4つに分けて解説する。私たちは子どもの頃から「正しいこと」「善いこと」をするよう教えられてきた。色々な考えが頭をよぎっている状態よりも、「揺るぎない」考えを持った状態の方が、心地いいと感じるだろう。「安全性」は「心理的安全圏にいること」を指し、これは、面倒なことになりそうな会話を避ける時によく現れる状態らしい。

 4つのどれも、納得の内容だ。この「エサ」に引き寄せられて、私たちは会話の落とし穴に陥ってしまう。著者は、エサを手放さない限り、落とし穴から抜け出すことはできないと指摘し、この落とし穴から抜け出すカギは「行き詰まっていることを主体的に認め、そこから抜け出そうとすることだ」と述べる。簡単なことではないかもしれないが、本書には、それを習得するためのエクササイズもきちんと紹介されているのでご安心を。自分の行き詰まりの傾向が分かれば、対処もしやすくなるはずだ。

■会話力を磨くエクササイズは「真面目な遊び」

 本書の冒頭で、著者はエクササイズに対して「真面目な遊び」という気持ちで取り組んでもらいたいと述べている。集中して自分の経験を振り返り、失敗要因に向き合うことが重要だが、これは自分の欠点や人間性が浮き彫りになる内容なので、あまり真面目になりすぎないように! すべてのエクササイズをこなすのは簡単な作業ではないが、自分と真摯に向き合う機会や、人との関わり方を考える機会を与えてくれる。

 会話をスムーズに行うことができれば、自然と人間関係もスムーズになるだろう。会話がうまく進まないと感じている方や、人間関係を良好にしたいと思っている方は、ぜひ本書を手に取ってほしい。毎日の生活をさらに充実させるためにも、読んで(そしてエクササイズをこなして)おいて損はない1冊だ。

文=松澤友子