性格・体調・心理状態もダダもれに! 自分も他人も揺り動かす「声の力」とは?

暮らし

公開日:2018/4/25

『声のサイエンス あの人の声は、なぜ心を揺さぶるのか』(山﨑広子/NHK出版)

 身近な人でもテレビやラジオを通じてでも、「あの人が話し出すとなんだか聞き入っちゃうのよね」「彼の話から、いつも説得力が伝わってくるのはなぜなんだろう」などと、特定の人の話に奇妙な感覚を覚えたことはないだろうか。それにはどうやら、会話のテクニック以前に“声”そのものに秘密があるらしい。

『声のサイエンス あの人の声は、なぜ心を揺さぶるのか』(山﨑広子/NHK出版)は、“声”と脳や体との関係性や、心身的、社会的な影響にも及ぶ「声の力」が、自他にどれほど大きなものなのかを解き明かす1冊である。

■声を聞けば、その人の体格、性格、ましてや病気までもが丸わかりに!?

 本書冒頭に早速、ドキリとする1文を見つけた。著者いわく「声は履歴書以上に個人情報を晒す!」という。

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声という音は、話し手のじつに多くの情報を含んでいます。どのような情報かというと、身長、体格、顔の骨格、性格、生育歴、体調から心理状態まで。つまりその人のほぼすべてです。

 無意識に会話をしているとき、私たちは思っている以上に丸裸の状態に近いようだ。わかりやすい例として、子どもと成人男性の体格差が挙げられている。体格が小さいということは、声帯や「音を共鳴させる」部分である「声道」も短いので声が高くなる。対して成人男性は一般的に大きな体格となるから、身長もあれば声帯や声道も長くなり、声域は低くなるのだという。ちなみに高齢者は、加齢により声帯の柔軟性が徐々に損なわれ、固くなっていくことで「しゃがれた声」になっていくそうだ。
 そして“体調”については、普通の聴覚でも声から兆候を感じることができるらしい。

「あれなんだか声がいつもと違う」と思ったら、注意して声を聞いてみましょう。(中略)たとえば、心臓に疾患があると「サ行」「カ行」が不明瞭になりますし、睡眠不足や過労だと言葉の出だしが擦れます。逆に語尾の擦れや揺れは、呼吸の不安定さの表れです。急に声に芯がなくなってくぐもるようになったら脳梗塞の予兆かもしれません。

 脳疾患で呂律が回らなくなるという特徴は聞いたことがあるが、他にも声でさまざまな病の予兆がわかるとは驚きである。なぜかというと、声は単純に声帯を通して出る音だけで成るものではないからだ。「共鳴」という言葉がヒントになるだろう。専門家でもない限り、普段は声と体の繋がりを考えることすらしないが、これからは風邪をひいたときにも声のことが気になってきそうだ。

 本書を読み進めていくと、病気のとき以外にも、発声が自らの体や心理状態に確実に大きな影響を及ぼしているのだと実感できる。それを踏まえたうえで、“自分の「本物の声」”を見つけるためのアドバイスは必見だ。

■アーティストも政治家も「声」があってこそ地位を得た!?

 さらに本書は、人間の歴史に大きく影響を残してきたとされる宗教界や政界における「人を動かす」ための有利な声の使い方にまで解説を進めていく。声の文化人類学的な側面や、音声学の観点から窺い知る人類の歴史についても理解することができ、非常に興味深い。

 たとえば「カトリック教会の天井が高いわけ」「政治家の声は世界の情勢を反映している」「国会中継で嘘つきがわかる」などのテーマも、声からその理由が解説されている。私たちのよく知るところでは、あの田中角栄のダミ声は立派な「政治力」のひとつとして機能していたことや、トランプ大統領の性格もまた声からわかってしまうというえぴどーその紹介もある。

 別の章では日本のアーティストの歌声に関する記述もあり、ユーミンこと松任谷由実、B’zの稲葉浩志、DREAMS COME TRUEの吉田美和、甲本ヒロトなど豪華な顔ぶれの声が分析対象となっている。

 著者の山﨑広子氏は、音楽・音声ジャーナリスト。音楽大学を卒業後、さらに心理学・音声学の知見を拡げ、音響心理学、認知心理学を基盤に音声が心身に与える影響を探究・執筆しながら、講師としても活躍中だ。

 自分の声を見つめ直し、向き合うことで、「声の力で自己イメージを書き換えられる」と著者は提唱している。「声の力」を使って新たな自己実現を目指すならば、まず自分から“本物の声”が出ているかどうかをチェックしてみるのがよさそうだ。

文=小林みさえ