路地裏への小さな旅、見慣れた街の見知らぬ表情を探しに行きませんか?
公開日:2018/5/27
昨夜のネオンホールでのライブの余韻に浸りながら中央通りを歩いていた。「長野市って善光寺以外どこ見りゃいいんだ?」なんて、地元の人が聞いたら気を悪くするようなことを思いながら、ふらっと立ち寄った雑貨店で白い本に目が止まった。
「その本を作った清水君は、ネオンホールを立ち上げて、住んでいた人なんですよ」という店員さんの言葉に押されて本を手に取る。マット加工された手触りの良い表紙には“〜長野市の「知られざる風景」50選~”とあった。
『見慣れた街・見知らぬ表情 ~長野市の「知られざる風景」50選~』(清水隆史:写真・文/長野商工会議所)は、「長野商工会議所だより」で2007年4月より続く連載「見慣れた街・見知らぬ表情(かお)」が2016年に100回を突破したことを記念して発行された1冊。そっとページを開くと、さっきまで歩いていたのと同じ街とは思えない、長野の街の別の表情が現れた。
地元で「ガウディ・マンション」と呼ばれる小洒落た建物。近隣のビルと一体化しながらも残る「長野駅・幻の1番線」。地球の中心まで届いていそうな「大穴プール」。「ひまわり交通公園」の道路に立つと、巨人の街に迷い込んだような不思議な写真ができあがる。
美しくも、どこか儚げな、郷愁をそそる写真。添えられている解説文には「写真の対象物の由来」に加えて、その光景に対する清水さんの視点や思いが込められている。読み心地の良い文章は、音楽家でもある清水さんの刻むリズムを感じる。
各紹介の最後には「謎風景★★★☆☆」「絶滅危惧度★★★★☆」「長野的貴重度★★★★★」といった具合に5点満点の星評価が付けられている。「長野的貴重度」が記された景色のほとんどが星4つ以上なのは、長野の街への愛情の現れだ。
また、あえて詳細な住所を載せていないのは、そこにたどり着くまでの道程や、迷い込んだ路地の雰囲気を楽しんでほしいという思いからなのだとか。
連載開始から10年以上が経つゆえに、中には建て替えられたり、無くなってしまったりした景色もある。書籍化にあたって現在の写真も掲載されており、惜しいと思ったりするが、清水さんはあとがきにこう記している。
きっと、街とはそういうものです。100年前にだって、昔を懐かしみ、変化を嘆く声もあったでしょう。街は住人の思い入れや郷愁とは無関係に姿を変えていくものです。僕らにできるのは、目の前にある風景を味わって、楽しむことです。
そこに生きる人たちが持つ街への愛情を込めて、「この街はこんな表情を持った、素敵な場所なんだ」と伝えることができれば、そこに観光スポットがなくても、インスタ映えするカフェがなくてもいい。
雨の日の街、黄昏どきの街、悲しい気持ちで歩く街、うれしい夜の帰路の街…同じ風景でも、見え方や感じ方は違う。そんな街だから、人は「また来てみたい」と思う。
今そこで眠っている街の肩を優しく揺すっておこしてあげたら、街はきっと、皆がまだ知らない素敵な表情(かお)を見せてくれるだろう。
『見慣れた街・見知らぬ表情』のような本が、日本中のあちこちで作られたらいいなと思う。行きたいところだらけになって大変だけど。
また長野に行ってみたくなった。
文=水陶マコト
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