あの夜、あの子と「ヤれたの?」「ヤれなかったの?」『やれたかも委員会』で描かれる、男女間の心の機微【ドラマ放送中】
更新日:2018/5/7
過去というものは取り戻すことができない。いくら後悔したところで、現実を変えることはできない。だからこそ人は、「あのとき、もしも勇気を持って一歩踏み出していたらどうなっていたのだろう?」と過去を振り返り、消化不良な思い出に浸るのだろう。
『やれたかも委員会』(吉田貴司/双葉社)は、まさにそんな過去をジャッジするマンガだ。本作で取り上げるのは、「やれたかもしれない一瞬」。思い切って告白をしていたら、つないだ手を離さなかったら、キスした勢いで押し倒していたら、もしかしたらやれていたかもしれない。そんな男女のもどかしいワンシーンを切り取り、そこに「やれた」か「やれたとは言えない」かの判断を下していく。
■「やれた」「やれない」に至るまでの男女間の心の機微
ただし、その「やれた」「やれない」議論は表層的な部分。本作で描かれているのは、そこに至るまでの男女間の心の機微だ。
メインキャラクターになるのは、相談者のエピソードをジャッジする「やれたかも委員会」の3人。犠星塾塾長・能島 明、ミュージシャン・パラディソ、財団法人ミックステープ代表・月 満子。この謎の人物たちが、毎回訪れる相談者の「やれたかもしれないエピソード」に耳を傾け、各々の意見を口にしていく。
本作は第1巻が発売されると同時に、ネット上で非常に大きな話題を集めた。特に男性読者からは自身の思い出と重ねる共感の声が寄せられ、2018年1月~3月には、ネットドラマとしても配信。そして、その人気はとどまることを知らず、4月24日(火)からはついに地上波のドラマとしての放送がスタートした。また、3月28日(水)には待望の第2巻が発売されており、いま注目の作品といえるだろう。
■「やれた」判定は1、2割程度?
第2巻にも珠玉の「やれたかもしれないエピソード」が満載。カラオケで出会った女の子と濃密なキスまで交わしたのにその先を逃してしまった夜、「誰とでも寝る」という噂のある女の子が泊まりに来た日の逡巡、完全個室の居酒屋で膝枕をしてくれた女の子との微妙な距離感……。いずれのエピソードも、青春時代を思わせるドキドキ感に満ちている。
男目線で読むと、どのエピソードも「それ、確実にやれただろ!」と断言できてしまうものばかり。しかし、「やれたかも委員会」唯一の女子・満子さんのジャッジは非常に厳しい。彼女が「やれた」と判断するのは、作中に登場するエピソードの1、2割程度だ。やはり、すぐに舞い上がってしまう男とは異なり、女性の目線は常に冷静なのだろうか……。
そこで今回は、ダ・ヴィンチニュースでも簡易版「やれたかも委員会」を結成することに。今回のレビューを執筆するにあたり、周囲の男性陣から集めたエピソードを、恋愛経験豊富な女子にジャッジしてもらうことにした。
■ダ・ヴィンチニュース版「やれたかも委員会」
相談者A:社会人になって数年目、大学生時代の女友達と偶然再会し、そのまま飲みに行くことになりました。すると、酔っ払った勢いなのか、彼女が突然、「昔、きみのこと好きだったんだよね」と告白してきて……。思わず盛り上がってしまい、お持ち帰り。部屋でキスをして、いざ!ってときに、「実は彼氏がいるんだ」と打ち明けてきたんです。迷った末に、結局やらなかったんですが、あれは何だったんでしょうか……。
回答:やれたとは言えない
彼女の発言には、まったく他意がありません。「昔好きだった」というのは、文字通り昔の話。過去の気持ちを話しただけです。それをAさんは現在進行系のものだと勘違いして、暴走してしまった。キス? キスくらいは流れでするでしょう。でも、やっぱり「無理」だと思ったから、「彼氏がいる」と口にしたんです。これはいわばストッパー。彼女に本当に彼氏がいたかどうかはわかりません。はっきりしているのは、Aさんとは「やれなかった」ということです。
相談者B:ぼくには、小中高と同じ学校に通っていた幼馴染の子がいます。彼女とは非常に仲が良くて、毎年誕生日にはプレゼントを贈り合うほどでした。そんな彼女が、あるとき、「下着」をプレゼントしてくれたんです。それも自分では買わないような高級ブランドの、ちょっと派手なデザインのもので。男に下着を贈るって、意味深ですよね。それ以来、妙に意識してしまって、ついにキスをしようとしたんです。そしたら「なんか笑っちゃうね」と一言。ハナからその気はなかったんでしょうか?
回答:やれたとは言えない
幼馴染といえるほど仲が良い関係であれば、ノリで下着をプレゼントすることもあります。ネタになるし、意外と実用的でありがたいものだったりもするじゃないですか。つまり、彼女は最初から仲の良い男友達としてしか見ていなかったということ。そこを勘違いしたBさんからキスをせがまれてしまった。「なんか笑っちゃうね」とごまかすように拒否したのは、Bさんを傷つけないように、という彼女なりのやさしさです。せっかくの性別を超えた友情、一時の勢いで壊さずに大切にしましょう。
相談者C:大学生時代、映画鑑賞が共通の趣味だった女の子と、ちょくちょく2人きりで映画館に足を運んでいました。ところが、彼女がチョイスするのは、なぜか毎回ムードのある恋愛映画ばかり。そんな関係が2年ほど続き、「もしかしたら脈があるのかも……」と思ったぼくは、彼女に告白したんです。すると、見事に玉砕。好きでもない男と恋愛映画なんて見ますか? ぼくは彼女にとって、なんだったんでしょう……。
回答:(条件付きで)やれた
女子は好きでもない男性と2人きりで映画を観に行ったりしません。お互いの趣味を理解していないといけないし、観た後に感想を言い合ったりするのも面倒でしょう? だから、映画に行く時点で、多少は気があったはず。もしかしたら、Cさんへの想いを恋愛映画にのせていたかもしれませんね。ただし、タイミングが遅すぎです! 2年って! いくらなんでも、そこまでは待てません。草食の極みだったところが、Cさんの敗因。もう少し早いタイミングで押していたら、きっと彼女と付き合えていたと思います。
う~ん、やっぱり女性の視点って冷静! ここまでバッサリ斬ってくれると、モヤモヤした過去が昇華されていきそうだ。若干、傷つくけど。
全世界の男性陣に贈る『やれたかも委員会』。共感必至の本作をチェックし、自身のなかに眠る「やれたかもエピソード」に答えを見出してみようではないか。
文=五十嵐 大
■1巻レビューはこちら
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