真夏の東京駅を舞台に、28人の登場人物たちが交錯・激突!! 恩田陸『ドミノ』

文芸・カルチャー

更新日:2018/10/16

『ドミノ』(恩田陸/KADOKAWA)

 ドミノは倒れ始めると、あっという間に終わってしまう。けれど、それを見守る観客たちの心は、単純なものではない。様々な仕掛けに驚き、感動し、喜び、……一方、途中で止まってしまわないだろうかと、心配になりハラハラ、ドキドキしたり。また、最後までドミノが倒れた瞬間には、快感もある。

『ドミノ』(恩田陸/KADOKAWA)は、まさしくそのドミノのような物語だ。

 真夏の東京駅。多くの人が行き交い、すれ違うこの場所で、世間を揺るがす大事件が起きようとしていた。テロリストによって持ち込まれた爆弾が、手違いで一般人の手に渡ってしまった後、行方不明になっているのだ。

advertisement

 さぁ、爆弾はどこに行ったのか。誰が持っているのか。タイムリミットまでに、テロリストは、警察は、爆弾を発見することができるのか――!

 ……という、シリアスにも壮大な心理劇にもなる熱い舞台が整う一方で、登場人物たちのほとんどは、爆弾のことなど知りもせず、ごくありふれた(しかし、本人たちにとって、むしろ爆弾事件よりも重大な危機に瀕した)出来事に直面している。

 今日中に本社へ送らなければ大変なことになる1億円の契約書を待つ生命保険会社のOLたち。俳句オフ会のため地方からやって来たけれど、東京駅で迷子になった老人。生真面目な恋人に飽きてしまい、別れることを画策する青年実業家。幹事長の座を狙い、熾烈な争いを繰り広げるミステリ連合会所属の大学生。愛すべきペットが逃げてしまったホラー映画監督……。

 本作には、実に多くの人々が登場する。しかし、ただ多いだけではない。「主役は誰?」と聞かれて困ってしまうほど、「見せ場」はそれぞれにあり、誰一人欠けても物語は成立しないのだ。

 こんなに大勢の人物が出てくる小説は、そうそうお目にかかれないのではないだろうか。「面白くならない」から、多くの作家は「書かない」のではなく、「書けない」のだと思う。

 小説はキャラクターたちに共感したり、感情移入したりするから面白いのであって、よく分からない人が何をしても、イマイチ心に響かない。

 登場人物が多くなると、それぞれの人物を深く描ききれず中途半端になってしまい、読者は「面白くない」と感じやすくなる。さらに「このキャラ、いなくてもよくない?」と白けられてしまえば「無駄に長くて、読むのがかったるい本」となってしまうのだ。

 本作は、そういった「かったるい」は一切ない。すべての登場人物が交錯し、偶然が激突し、歯車が加速していき、読者はまるでドミノが「ドドドド……」と倒れていくかのように、夢中になってページを捲るのだ。

 個人的にはラストの「スッキリしない」終わり方も好きだ。後味の悪さでもなく、尻切れトンボというわけでもなく、「運命のドミノは続いていく」――その期待感に胸が躍るのである。

文=雨野裾