誰もいない男子校の寮で、4人が始めた「告白」ゲーム。7日間の感動青春グラフィティ『ネバーランド』

文芸・カルチャー

公開日:2018/5/1

『ネバーランド』(恩田陸/集英社)

 学校とは、私にとってどういう場所だったのだろうか? 自分が高校生だった時はそんなことを考えもしなかったが、「あの日々」が今の自分に少しも影響していないはずがない。あれだけ濃縮した時間を過ごすことは、もう二度とないだろう。

 私たちはすっかり大人になって、全てを思い出すことは難しい。美化して、都合の悪いことは忘れてしまっているような気がする。

 学校とは、どんな場所だったのだろう?『ネバーランド』(恩田陸/集英社)は、その答えを垣間見せてくれる一冊だ。

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 伝統ある男子校の寮「松籟館」(しょうらいかん)は冬休みを迎え、多くの生徒が帰省のために去っていく。しかし様々な事情を抱えた4人の少年たちは、実家へ戻ることなく、居残りを決めた。

 ひとけのない古い寮。年末という一年でちょっと「特別」な時間。

 日常とは違う空間が、いつもとは異なる友人の一面を浮き彫りにさせる。

 他人と競うことを嫌う陸上部の美国(よしくに)。
 硬式テニス部の部長で明朗快活、友達も多い寛司(かんじ)。
 成績優秀の頼もしい美少年、光浩(みつひろ)。
 落ち着きがないムードメーカーで天才気質の統(おさむ)。

 それぞれの個性を持った4人の少年は、暇つぶしに「告白」ゲームを始める。ゲームに負けた人間が「訊かれた質問に絶対正直に答える」というもの。

 他愛もない「遊び」のはずだったそのゲームが、少年たちの知られざる陰惨な過去を明らかにし、心の闇を白日の下にさらす。

 一方、首つり死体を模した人形が、寝ていた統の目の前に吊るされていたり、美国が寮のサロンで不審な死を遂げた同級生・岩槻(いわつき)の幽霊を目撃したりと、ヒヤリとする事件が起こる。それぞれの隠していた「秘密」や不可思議な「謎」が明らかになる時、読者は「学校」という特殊な空間が自分に与えたものを、再認識するのではないだろうか。

 美国は、松籟館での生活に――高校生活について思う。

この一見乱雑でどうしようもない世界では誰もが対等だ。それでいて、親も教師も侵すことのできない一種の聖域なのだ。この学校に、松籟館に一歩足を踏み入れた瞬間にだけ現れる、どこにもない国――。

 本作は青春の輝きと友情を描いている。4人の少年たちは「どこにもない国」で、青春を謳歌して、その瞬間、かけがえのない親友を得ているのである。

 しかし著者はあとがきで、「(大人になったら)みんなバラバラで4人がそろうことはめったにないと思うけど」と書いている。そう、美国たちは高校を卒業したら、きっともう、疎遠な関係になってしまうのである。いつまでも「仲良し」ではないのだ。

 学校というネバーランドを離れてしまえば、4人はそれぞれの道を歩き出す。これが恩田陸さんの青春の「見え方」であり、真理を描いているように思う。

文=雨野裾