阿部サダヲ、吉岡里帆出演で映画化! ふたつの歌声が奇跡を起こす『音量を上げろタコ!なに歌ってんのか全然わかんねぇんだよ!!』
公開日:2018/5/2
「それってさ、やらない理由を見つけてるだけだろう。いるんだよ、やらない理由見つけるのが上手いやつ」
主人公のふうかと同様、私自身この言葉がよく刺さる。本当にその通りだ。やりたいことはたくさんあるのにあと少しの勇気を出すのが怖くて、何かと理由をつけていく。
歌手を目指しているにもかかわらず、小さな声でしか歌えない明日葉ふうかと型破りな謎の男・シン。何もかもがうまくいかない日々の真っ只中にいたふうかはうまく気持ちを伝えることのできない自分とは正反対のシンと出会うことによって、その人生が大きく変わっていく。
脚本家であり映画監督でもある三木聡の書き下ろし小説、『音量を上げろタコ!なに歌ってんのか全然わかんねぇんだよ!!』(KADOKAWA)。まず、そのタイトルのインパクトに驚いてしまうが、本を開いてみるとそこに書いてあるセリフの数々にも思わず目をとめてしまう。
前述したセリフは、シンがふうかに対して発した言葉だ。「~したらやる」とか、「でも」だとか「だけど」だとか。そんな風にやらない理由を集めているうちに実は目の前にあるチャンスを逃してしまうことだってある。何か行動を起こすには完璧な形でないと取り組んではいけないような気がしてしまうものだ。たしかに、完璧な形で取り組めるのであればそれ以上にいいことはないだろう。けれど、時には思い切ってその潮が満ちる前に行動を起こしてもいいのではないだろうか。目の前にあるチャンスに行き当たりばったりで食いついてみてもいいのではないだろうか。
その「もっと冒険的になってみてもいいんじゃないか」と思わせられる印象的な場面がある。ふうかと叔母であるデビルおばさんが一緒に屋台でラーメンを食べる場面の出来事。たまたま見かけたその屋台のメニューには「よろこびソバ」の文字が。「よろこびソバ」とは一体なんなのか…。
ここで得体の知れないラーメンを選ぶか選ばないか。いつもだったら無難な選択で済ませるふうかだが、デビルおばさんの強引さに負け結局「よろこびソバ」を食べることに。その選択がなんでもないことのようにラーメンを待つデビルおばさんとは反対に、後悔を拭いきれないふうかだったが、まさかのそのラーメンがふうかの大きな決断を後押しすることになる。
このラーメン屋で何を食べるか、という小さな選択ですら冒険するかしないかその生き方を問う。なんだか馬鹿馬鹿しい、と思うだろうが、本書には馬鹿馬鹿しいように見えて、案外大事なことなのかも…と思う場面がいくつもある。しかし、振り返ってみれば普段の私たちの生活だってそうなのかもしれない。他人から見たら大したことのない出来事が自分を大きく変えてくれることだって多分、あるのだ。
そして、作中の文章を読んでいると、三木聡が生み出す数々の台詞の言葉あそびが独特の流れを醸し出していることがわかる。そして、三木作品ではお馴染みである物語の合間に挟まれる主人公の心の声。文字で読んでみると言葉の語呂合わせが効いていたり、ダジャレが隠されていたりするのが目に見えて面白い。中には三木作品にはお馴染みのセリフも垣間見られるため、ファンとしては思わずニヤリとしてしまう。
この作品は、同タイトルで2018年劇場公開予定であり、阿部サダヲと吉岡里帆のダブル主演で公開することが決まっている。公開前に書き下ろし小説を読んで予習しつつ、映像ではどのようになるのだろうかと想像を膨らませてみては?
文=ささぶち りりこ