他人に合わせることに必死な人へ…楽しく生きるコツをショーペンハウアー『幸福について』から学ぶ
更新日:2018/5/14
4月16日、女子中学生が友人宅から1000万円を盗み、同級生に配った容疑で逮捕された。筆者が驚いたのは、その動機だ。どうやら「仲間外れにされることへの恐怖」が、彼女を追い詰めたようだ。そこまでしてでも「周囲とつながっていなければいけない」と思ってしまうものなのか……?
こんなとき、あの先生ならきっと、現代の私たちにこう活を入れるのだろう。
「人間は他人と合わせようとして自分の4分の3を失う」──のだと。
かくのたまうのは、18、19世紀を生き、ニーチェほか多くの哲学者、作家、芸術家、科学者たちに、多大な影響を与えたドイツの哲学者、アルトゥル・ショーペンハウアー先生(1788年2月22日~1860年9月21日、以下、先生)だ。
先生によれば、「他者に惑わされてはいけない」のである。孤独上等! なのである。そんな先生の教えと名言・金言(アフォリズム)の数々を、マンガで学べるのが『幸福について(講談社まんが学術文庫)』(ショーペンハウアー:原作/講談社)だ。
●鉄拳の三島平八風、頑固おやじ顔で、不人気だったショーペンハウアー
まず、先生のビジュアルだが、肖像画で描かれている鉄拳(ゲーム)の三島平八風、頑固おやじ顔を、本作もそのまま踏襲。そんな本作は、先生(64歳)が自ら出版社に出向き、自著の売れ行き具合を確認するところから始まる。
すると「先生の著作? 全部絶版です」と、出版社からはつれない返事が。そう、実はこの先生、当時はとにかく不人気哲学者だったのだ。
というのも、
孤独を愛さない人間は、自由を愛さない人間にほかならない。
なぜならば、孤独でいる時のみ、人間は自由なのだから。(本書より引用)
こんな根暗発言に加えて、キリスト教的世界観を悲劇的にとらえ、インド思想や仏教の優越性を説いたのである。当時のヨーロッパ人に「こいつ、ウザ」と思われてもしょうがない。おまけに同時代には、ヘーゲルという人気哲学者もいた(その確執については本書にも詳しい)。
自分の不人気ぶりに落胆しつつ帰宅する先生だが、その途中、運命的な出会いを果たす。その相手が、木にロープをかけて自殺をしようとしていた、当時19歳のエリザベート・ネイ(1833年1月26日~1907年7月29日、女性彫刻家として後に米国で大成)だった。
●知恵が学べて、純粋にマンガとしても感動が味わえる
その現場に通りがかってしまった先生。「死んでも苦しみから解放されるとは限らない。それより、ちょっとデートしないか」といったノリで、エリザベートに自殺を思いとどまらせ、見事、ナンパに成功。
自宅屋敷に招き事情を聞いた先生は、「彫刻家になりたいが才能もなく、親も許さないため、自分の不幸を悲観して死のうとした」というエリザベートにこう告げる。
「キミが幸福になれる要素がある。人生において、できるだけ幸福に生きるためには、自分自身の中に享楽を見つけ出すことだ。その中でも最も高尚な享楽を見出す術が、芸術に勤しむこと。キミはそれを実行出来る」(本書より、抜粋引用)
こうして始まった先生と、その教えに感銘を受けたエリザベートとの交流。本書は、この「老いらくの恋」さえも匂わせるような、二人の心温まるやり取りを軸にしながら、回想シーンなどを通して、先生の生い立ち、主立った思想の内容、名言・金言などの数々がちりばめられていく構成となっている。
前述したが、ショーペンハウアー先生の教えは、仏教の世界観も色濃く、日本人には理解しやすい思想、言葉が多い。そして、知恵を学ぶだけでなく、純粋にマンガとして、先生のほのかな恋心の行方なども楽しめ、エンディングは感涙すらこみ上げてくることも、本書の大きな特徴だろう。
「哲学に興味はあるが、専門書はハードルが高い」という方はもちろん、「幸福はどこに求めるべきか」を学びたい人、「他者との関係が気になり過ぎる」「自分らしくいようとすると孤独になり不安だ」といった人は、ぜひ、先生の言葉から知恵、勇気、そして安心を得ていただきたい。
ちなみに「講談社まんが学術文庫」では他にも、『歎異抄』(親鸞述)、『資本論』(マルクス著)『罪と罰』(ドストエフスキー著)など、ハードルの高い名作の数々がマンガで学べる。4月の創刊以降、毎月発売される予定なので、あわせてチェックしてみていただきたい。
文=町田光
■電子書籍でも読める! 講談社まんが学術文庫公式HP:https://man-gaku.com/