ズバルッ! 食欲減退間違いナシの逆飯テロ・スピンオフ!『闇金ウシジマくん外伝 らーめん滑皮さん』
更新日:2018/5/14
10日で5割の超暴利闇金を営むウシジマくんの日常を描く、ダーク過ぎるピカレスク作品がご存じ『闇金ウシジマくん』(真鍋昌平/小学館)。金属バットで人の頭をフルスイングできる系のイカレた登場人物ばかりな作品だが、その悪質具合では作中1・2を争うヤクザ・滑皮(なめりかわ)を主役に据えた、まさかのスピンオフ作品が登場した。タイトルは『闇金ウシジマくん外伝 らーめん滑皮さん』(真鍋昌平:原作、山崎童々:作画/小学館)……まさかのグルメもの!
本編でも度々登場する最凶ヤクザ・滑皮と、彼にいいように使われる情報屋・戌亥、そしてラーメンを軸にストーリーは展開する。滑皮に命じられた張り込みの最中、小腹を満たすために戌亥が入るラーメン屋(クソまずい)だったり、滑皮の昔なじみだという煮玉子が美味い中華屋(のちに滑皮により店ごと召し上げられる)の一杯だったりと、1話読み切り形式で語られるストーリーは、毎回ラーメンが登場しつつお話的にはろくでもなく、後味も悪い。が、『ウシジマくん』のスピンオフでハートフルな結末になるワケもなく、これはこれで納得感が。
意外なのは、本編では極度の駄菓子好きとして描かれていた戌亥の食レポ描写だ。各話で食すラーメンの味を、小麦や出汁レベルから味わいつくし、その旨みを丁寧に解説。本作をグルメ漫画と呼ぶのであれば、それを支えているのは戌亥の食レポである、と断言していい。ラーメンをすする表情も魅力的で、ポジション的には本作の“ヒロイン”と呼びたくなる。
一方で本編そのままに描かれるのが、滑皮の食いっぷり、下品で小汚い食事描写だ。「ズバルッ!」「ズルゥッ!!」「チュボボ」と濁音満載で描かれる滑皮の食事シーンを見れば、食しているのが絶品ラーメンであろうと読者の食欲をそそることはない。そんな滑皮を横目に見ながら、付き合わされる戌亥は(食い方ほんとに汚えなぁ…!)と心の中で呟くのだった。
本編から退場していったキャラが再登場するのも、スピンオフ作品ならではの読みどころだろう。丑嶋、滑皮にハメられ当たり屋役としてトラックに轢かれた極悪人・愛沢は、ツラいリハビリを乗り越え「ラーメン爆走族・愛」の店主として復活。丑嶋に破滅させられたネットビジネス界の風雲児・天生翔も、愛沢復活の契機となる情報商材「天生メソッド」のDVDパッケージでちらりと登場する。
本作は現在Webサイト「やわらかスピリッツ」にて連載中だが、単行本未収録の新作にも消えていったキャラたちが次々復活を果たしている。ただし時系列は明示されていないので、何人かは“在りし日の姿”かもしれないが。
スピリッツ編集部による“滑皮さんと戌亥のひりつくような食事シーンに心酔してください”との不思議なアピールからもわかるように、あくまでも本作の魅力は『ウシジマくん』と同じ暴力的な世界観、そして滑皮と戌亥の微妙な関係性だ。なんだかんだと度々滑皮に食事に呼ばれ、嫌々ながらも付き従う戌亥だが、しかし美味いラーメンを食っている時だけは幸せそうで、それが本編では味わえない癒やしをもたらしてもくれる。これで滑皮さえいなければ、真っ当なグルメ漫画になったのに……。
読んでも食い気をそそられない、世にも珍しい“腹が減らない”グルメコミック。逆の意味で飯テロにもなりかねないので、読むのであれば食前は避けられたし。
余談ではあるが、本編の雰囲気を高レベルで再現する山崎童々の画力にも要注目だ。山崎は自らもグルメ漫画『みつめさんは今日も完食』を著作に持つが、風評被害が及ばないか心配である。あちらはちゃんと、美味しそうに食べてます。
文=佐藤圭亮