あの戦国武将はサイコパス? 歴史的事実と精神分析で読み解く猛将たちの心の闇
公開日:2018/4/30
歴史ブームが続いている。歴史上の偉人や史跡を中心とした街おこしは日本中で変わらず行われており、テレビの歴史関連番組の数も減ることはないようだ。“日本史の学び直し”のトレンドも続いている。受験でかつて暗記をした大人たちが、改めて歴史そのものへの興味を抱き直しているのかもしれない。
本稿で紹介したいのは、また新たな視点で歴史をとらえた書籍『戦国武将の精神分析』(中野信子、本郷和人/宝島社)である。脳科学の観点から武将たちの“心の闇と真意を解剖”したものだ。
■歴史的事実を根拠として、武将たちを精神分析する試み
本書は、日本中世史の研究家である東京大学教授・本郷和人氏と、テレビなどメディアでもひっぱりだこの脳科学者・中野信子氏の対談形式で書かれている。前述した“武将たちの心の解剖”とは、本郷氏が提示する歴史的事実をもとに、中野氏が戦国武将たちの精神分析をしていくという試みだ。誰もが知るような戦国武将たちを“家族殺し”“サイコパス”“高IQ”などの観点から分析し、仮説を組み立てていく。
導き出される仮説はさもありなん、というものから意外に感じるものまでさまざまだ。例えば、織田信長や武田信玄はサイコパスの疑いがあるという説は、猛将というイメージ通りかもしれない。だが同時に本書では、武将たちの中には、歴史に名を残す有名な人物としては意外だが、自己評価の低い者や、アスペルガー症候群、境界性パーソナリティ障害かもしれないと思われる者もいると興味深いトピックも立てられている。
■上流階級好きのアイデアマン? 豊臣秀吉を精神分析する
一例として、本郷氏と中野氏が語る豊臣秀吉についての考察をまとめてみたい。
・詐欺師感情によって上流階級の女性を求めた?
成功を収めた人間は、自分がズルをしているのではないかと感じることがあるそうだ。「何か足りていないのではないか」「自分は偽者なのではないか」という不安や空疎感が消えない。これは「インポスター感情(詐欺師感情とも訳される)」というらしい。秀吉は自分の周りに名家出身のお嬢さんを集めた。出世して強大な権力を手に入れた時に、自分のインポスター感情を指摘してもらいたかったのかもしれないと本書では仮説を立てている。
・アイデアマンとして知られる秀吉だが、創造性は今ひとつ?
アイデアマンとして名を成したと評される秀吉だが、本郷氏の指摘では、信長が考案したことをうまく発展させたにすぎないという見方もあるらしい。歴史的事実からみても、秀吉は非常に問題解決力が高く、その点では現代の知能テストでも高いIQを記録するだろうと推測されるそうだ。だが、脳科学者としての中野氏の観点によると、創造性は単純にIQで測れるものではないという。総合すると、既存の物事から課題点を見つけ、進歩させる天才だったのではないかと本書は結論づける。
■ワクワクするような新しい歴史解釈
旧来の歴史学という学問では、人物の内面的部分に立ち入ってはならないとされているそうだ。なぜなら、起こった事実が書かれているだけの史料や、後世に書かれた伝聞などを形にした史料では、人物の本当の内面を推し量ることができないからだ。だが、本書のように異なる分野の研究を掛け合わせて歴史を俯瞰するアプローチならば、彼らの内面もみえてくるかもしれない。本書で扱う15人の武将たちの新しい人物像の仮説には、歴史好きならずともワクワクしてくるはずだ。
文=古林恭