結婚して5年、レスになって2年。不倫したいわけじゃない、でも――苦しみを解消してくれるのは、夫かそれとも…
更新日:2018/5/5
私このまま女として終わるのかな――。そこはかとない絶望を抱く32歳のみちは、2年間、夫とセックスレス。妊娠の報告を聞けば「いいなあ、セックスしたんだ」、ハエの交尾を見れば「ハエでさえセックスしてるのに」とささくれだってしまう。そんな女性の話を聞いて、あなたはどう思うだろうか。みっともない? 女性のくせに、はしたない? それとも、愛されていなくてかわいそう? だから誰にも相談できない。上から目線のアドバイスもお説教も、哀れみも欲しくない。だけどどこかに吐き出さないと、自分の心が壊れてしまう。もし同じ悩みを抱いたことがあるのなら、ぜひ手に取ってほしいマンガが『あなたがしてくれなくても』(ハルノ 晴/双葉社)だ。
「子供欲しい?」と聞けば「欲しいに決まってんじゃん」と答える。「じゃあ作ろうよ」といっても「今日は疲れてるから」で寝てしまう。早朝からAVを観る元気はあるくせに、それを責めると「いっつも部屋着で腹も出てきて、ムダ毛もほったらかしで色気がない」と逆ギレ。落ち込み反省して下着を新調、家でもこぎれいにしていれば「プレッシャーだ」「そんなにしたいの?」「性欲強くない?」とため息をつかれ。正直、読んでいてみちの夫・陽ちゃんには怒りしか湧かない。でもこれ、かなりの“あるある”なんじゃなかろうか。
個人的に「女は感情的だ」とかなんとかいいながら、やれやれとため息つく男ほど、何かあればすぐ「めんどくさい」という感情起因で逃げると思っている。そういう男が正当だと思っている論理はたいがい、ただのいいわけだ。陽ちゃんも、みちから逃げた後ろめたさから「2人で仲良く暮らしてきたんだからそれでよくねぇ?」「いつかはしなくなるんだろうし」「DVも浮気もしてるわけじゃないのになんでこんなに責められなきゃいけないんだ」と悶々と頭で理屈をこね続ける。ただセックスしたいわけじゃない、愛されている実感が欲しいのだと涙ながらに訴えるみちに対して、よりにもよって「EDかも」なんて見え透いた嘘さえついてしまう。二人の亀裂を決定的にするものだと自覚もせずに。
もちろん、陽ちゃんだけが悪いわけじゃない。陽ちゃんが少しずつみちに手を抜き、男であることを手放していったように、みちもまた、自分が5年の共同生活でぞんざいに、女であることを手放していったことに気づく。それは何も、部屋着だすっぴんだという問題ではないことも。けれど、気づいてどうにかしようともがく彼女に、陽ちゃんはまるで耳を傾けてくれない。「だって俺は問題ないのに」という一人の結論で閉じてしまう。夫婦なのに。
陽ちゃんの問題は、みち相手にセックスする気が起きない、ことではない。コミュニケーションを求めているみちに対して真正面から向き合わないこと(だってめんどくさいから)。みちは少しずつ絶望し、冷めていく。そんなときに同じ悩みを共有し、寄り添ってくれる男性が現れたらどうだろう。みちの小さな努力も強がりも、全部見抜いて支えてくれる人が現れたら。
不倫したいわけじゃない。だけど、同じさみしさをもつ同僚・新名の優しさに、惹かれる気持ちをみちは止められない。女として、妻として、みちは幸せになるためにどんな解決策を見つけていくのか。その決断を見守っていきたい、作品である。
文=立花もも