子どもの“考える力”が伸ばせる! 親子で楽しむ「思考実験」
公開日:2018/5/5
2020年度に大学入試が改革され、大学受験の代名詞ともいえるセンター試験の廃止が文部科学省によって発表された。これまでの教育を見直す時期に入り、これからの大学入試は「考える力」が重視されるといわれている。そんな中で「子どもの論理的思考力を鍛えたい」「子どもの地頭を育てたい」という、親のニーズに応えて刊行されたのが『一流の考え方が身につく思考実験ビギナーズ』(北村良子/宝島社)だ。NHK『ハーバード白熱教室』で取り上げられて以来話題となっている思考実験の名作を、小学生にもわかりやすいようにイラストを用いて紹介している。
そもそも、思考実験とは何か? 思考実験とは、頭の中で実際にはありえないような場面を設定して、思考して行う実験だ。たとえば、人は飛べるようになったらどうなるだろう…そう思っても、実際に飛んで確かめてみることはできない。しかし、人が飛べるようになったらどうなるか、頭の中で実験することはできる。思考実験の実践は、自然と論理的に考える力が鍛えられ、柔軟に想像する力を育てることができると言われているのだ。
本書では、自分の心の奥底をのぞき込むことになる「トロッコ問題」、同じとは何かを考える「テセウスの船」、本当に得なのはどちらか「5億年ボタン」など、思考実験の名作を10選掲載。思わず頭を抱えてしまうような思考実験もあるが、親子でコミュニケーションをとりながら、考える楽しさや面白さを体験できる。それでは、本書の中にも紹介されている思考実験のひとつサンデル教授の『ハーバード白熱教室』でも取り上げられて有名となった「トロッコ問題」を紹介しよう。
■自分の心の奥底をのぞき込むことになるトロッコ問題
誰かを犠牲にしなければならない状況になったとき、どんな判断をするか? これは自分の心の奥底をのぞき込むことになる思考実験。線路の上で、5人の作業員が仕事をしている。そこへ石をたくさん積んだトロッコが猛スピードで走ってきた。5人の作業員は、トロッコにはまったく気づいていない。このままではトロッコが突っ込み、5人が確実に犠牲になってしまう。トロッコを止めることはできない。「逃げろ!」と大声で叫んでも遠くて声は届かない。しかし、あなたはトロッコの進行方向を変更できるレバーの前に立っている。
レバーを引けば、トロッコをもう一本の線路に変更することができる。ただし、変更した線路の先には1人の作業員がいた。レバーで線路の進行方向を変更すれば5人の作業員は助かるが、この1人の作業員が犠牲になってしまう。 あなたはこの6人の作業員となんの関わりもなく、偶然この現場に居合わせてしまっただけ。進路を変更したとしても誰かに責められたり、罪を負ったりすることはない。さて、あなたならどうする?
「トロッコ問題」は、倫理観を揺さぶる思考実験だ。暴走したトロッコの先には5人の作業員、レバーを引けば1人が犠牲になってしまうが、5人の命は救える。しかし、人を助けるために人を死なせていいのだろうか? この問題は多くの人に選んでもらうと、レバーを引くと答える人が多い。ただそれは多数派というだけで、正解というわけではない。大切なことは「あなたがどう考えるか」であり、「家族や友人はどう考えるか」である。それぞれの考え方を尊重し、話し合う、その経験を身につけてもらうためにも思考実験は最適だ。
社会に出ると、思考実験のように正解のない問題がたくさんある。だから、自分で考えて、行動できる力が必要になってくる。そして、人の話に耳を傾けることも忘れてはいけない。思考実験で得られるものは、きっと未来の支えになるはずだ。
文=なつめ