京都人は優雅で気位が高い一方、不自由で健気…見方が変わる!?『京都人の密かな愉しみ』

暮らし

公開日:2018/5/3

img01
『京都人の密かな愉しみ』(NHK「京都人の密かな愉しみ」制作班、源孝志/宝島社)

日本には二種類の人間が存在する。「日本人」とそして「京都人」だ

 日本の古都、京都。かつては天皇の御所があり、貴族が暮らしたこの街には貴族由来の文化や食習慣が今もなお色濃く残っている。歴史のある寺社仏閣も多く、舞妓さんや京野菜などの認知度も高い。21世紀になっても「日本らしさ」が残っている京都は日本では別格の存在であり、人々の憧れの的だ。

 京都というテーマは、すでに多くのメディアで扱われているものであり、決して物珍しくない。しかし、私たちはどれほど京都のことを理解しているといえるだろう。そう素直に感じるのが『京都人の密かな愉しみ』(NHK「京都人の密かな愉しみ」制作班、源孝志/宝島社)である。本書は、2015年1月から2017年5月までに不定期にNHKのBSプレミアムで放送されていたテレビシリーズをまとめたもの。

 ストーリーは、大学教授で文化人類学者のエドワードと、隣家の老舗和菓子屋の若女将の生活だ。エドワードは京都で暮らして10年。初老に差し掛かっているが、ワケあって独身を貫いている。若女将は、いまどき珍しいほど「京おんな」を体現したような女性だ。こちらも、ワケあっていまだ独身。番組はこのドラマをメインパートとして進行し、時折これに絡む京都を舞台としたオムニバスドラマや、京料理の作り方、京都の職人などを紹介する情報・ドキュメンタリーのパートがサブパートとして加わっている。この番組が異色なのは、テレビドラマとドキュメンタリーを融合させた作品であり、情報番組としての顔も持っていることである。フィクションを限りなくリアルに近づけた番組で、観光のような「一見さん」では見られない、リアルな京都の生活を地元の人目線で描いている。

advertisement

 この番組では徹底的に「ほんまもん」を追求している点が、他の京都番組と大きく異なる。たとえば、着物には夏用とそれ以外の季節のものがあるが、通常のドラマでは、夏用の着物を準備することは少ない。借りるのも難しいため、夏でも袷の着物を着て撮影することが多いという。着物やお茶の小物も本物を用意するのは難しく、よく似た安いもので代用することがほとんどだ。しかし、この番組では着物なら反物を選ぶところから、小物もほんまもんを用意することにこだわった。老舗和菓子屋の若女将なら、こういうところにも気を配るだろうというリアルさを追求している。

 ドラマにリアルさを持たせるには、俳優陣の言葉遣いも重要な要素だ。京都の言葉は関西弁とは異なるアクセントや、独特の言い回しがある。「なんにもあらしまへんけど→すごいでしょう? このごちそう」「考えときますわ→お断りします」「ほんによろしいなぁ→あんまりよくないね」など、言っていることと意味とが真逆になっているものが多い。標準語にはない単語もあり、こうした言い回しがその他の「日本人」には理解できない。京都の掟を理解するための教科書は存在せず、京都人は子どもの頃からこの地で生活する中で自然と京都人にふさわしい言葉や所作を身に着けていくという。そのため京都にはよそ者を受けつけない秘密結社のような側面があると感じる人もいるだろう。京都は基本的に、京都の掟を理解しない者には厳しいからだ。しかし、この番組はなぜそうした京都人の気質が作られていったかについての歴史的背景を知ることもできる構成となっており、大変興味深い。京都人は優雅で気位が高い一方、不自由で健気なのだ。

 本書は、京都のことを知りたい「日本人」にとって勉強になるだけでなく、京都人にとっても自分たちが住む場所を再確認できる一冊だ。

文=いづつえり