何気ない日常にはいつも必ずコーヒーがあった…キンシオ流、ゆる旅の極意
公開日:2018/5/2
ひとり旅は素晴らしい。誰にも邪魔されず、気を遣わず、思うがままに自由に足を運ぶ。「ひとりぼっちで、さびしくない?」なんて質問は、野暮!
ひとりでいる方が、実は声をかけられるチャンスが多いことは、経験者なら納得するところだろう。ひとり旅の「おとも」に必要なものがあるとすれば、それは「テーマ」。目的もなくさまよう旅もよいけれど、何かひとつ「テーマ」を決めてひたすら訪ね歩いたり、ルーツを探って知識を深めることもまた、楽しい。
『コーヒーと旅』(キン・シオタニ/マドレーヌブックス)は、イラストレーターであり、作家であり、ユニークなパフォーマンスの企画や開催にも取り組むマルチパフォーマーのキン・シオタニ氏の、いわば“放浪記”だ。
本書には、テレビ神奈川他で放映中のシオタニ氏の散歩番組「キンシオ」のロケ時のエピソードがたびたび登場する。シオタニ氏は毎回アポなしでロケに臨み、その日その時その場所のリアルな街の人たちの中に飛び込んでいく。商店街の人たちとの一期一会の交流を通して、一見何もなさそうな街の中にキラリと光るその街ならではの特徴を見つけだす。それこそがシオタニ氏の真骨頂だ。
■シオタニ流「よい喫茶店」の条件
・コーヒーが500円以下
・メニューが厚い
・銅板のレリーフがある
・椅子がやわらかい
・おしぼりがタオル
以上の条件を満たすのが、シオタニ流「よい喫茶店」。旅先では、自分の好みに合いそうな昔ながらの喫茶店に入り、その店の常連さんが思い思いに過ごす彼らの「日常」を観察して楽しむ。店内を見回して「よい喫茶店」の条件にいくつ当てはまるか数えてみたり。また、昭和のメニューの定番ナポリタンスパゲティを堪能したり…シオタニ氏にとって、いつも行く喫茶店は「日常」、旅先で訪れる喫茶店は「非日常」。同じように思えるが違う形でそのどちらも楽しんでいる。
■コーヒー豆は人生
コーヒー豆は焙煎しているとパチッと音がしていわゆる「ハゼ(爆ぜ)」が起きる。焙煎を始めて8分すぎにやってくる1ハゼ、1ハゼが終わりしばらく静かになってほどなくやってくる2ハゼ、豆は一気に爆ぜるのではなく、例えるならポップコーンのように、ひとつひとつタイミングが異なる。早ハゼの豆、遅ハゼの豆、さまざまだ。
豆にも個性があって気の早い豆は早くハゼる。僕はよく井の頭公園の桜を見ていて、一本の木でも、花の咲く時期が色々あるのを人生と同じだなと思ったものだ。桜の木自体もそうだし、同じ木の中の桜の花弁もそう。早咲き遅咲き、人生みたい。そしてそれはコーヒー豆もそうだと今初めて知りました。
よい喫茶店の条件がもうひとつあった。扉を開けると「カランコロンカラン」という音がすること。この音は、コーヒーのアロマ漂う素敵な別世界にあなたを誘ってくれる。日ごろの忙しさを忘れてほんのひととき、ゆるい時間に身を委ねれば、また新しい世界が見えてくるかもしれない。
文=銀 璃子