芥川龍之介「鼻」あらすじ紹介。不幸を乗り越えた人を素直に祝福できない自分はいませんか?

文芸・カルチャー

更新日:2023/7/12

『羅生門・鼻・芋粥(角川文庫)』(芥川龍之介/KADOKAWA)

 禅智内供(ぜんちないぐ)という僧は顎の下までぶら下がった腸詰のような巨大な鼻を持つことで有名で、長年彼はその大きな鼻をコンプレックスに感じて苦しんでいた。ある秋の日、京から帰ってきた弟子が医者から鼻を短くする方法を教わってきたと言うので、内供はこれを試すことに。

 熱湯で鼻を茹で、それを弟子が踏む。そして出てきた脂を毛抜きで取り、再度茹でる。すると顎下まであった鼻は嘘のように萎縮し、常人のサイズと同じようになったのである。これでもう以前のように他人から嘲笑されることはなくなると安堵した内供だったが、2、3日経つうちに彼は意外な事実を発見した。

 鼻が短くなった彼を見た人々が、あろうことか以前にも増して笑うのである。内供は初め、これは顔が急に変わったせいだと思ったが、それだけでは説明のつかないような人々の嘲笑の様子に気味悪さを覚える。彼は再び塞ぎ込み、果てにはかつての長かった鼻を恋しがるまでになる。

 人の心には互いに矛盾した2つの感情があり、他人の不幸に同情するが、その人がどうにかして不幸を切り抜けることができると、今度はどこか物足りなさを覚え、もう一度不幸に陥れたいといったある種の敵意さえも抱くようになるのだ。その後内供は熱を出して寝込み、彼の鼻は元の大きさに戻る。こうなればもう誰にも笑われない、と清々しい気分になった。

文=K(稲)