自分らしく生きるには——毒親とのトラウマを乗り越えるための救済本

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更新日:2020/9/1

『毒になる親一生苦しむ子供』(スーザン・フォワード (著)/ 玉置 悟 (翻訳)/講談社)

 親子の問題は“悪い”という言葉だけでは片づけられないくらい、こじれてしまうこともある。中でも、毒親に育てられると言葉にできないほど心が痛めつけられ、自分という人間すらも愛せなくなってしまうこともある。毒親とは、ネグレクトや虐待などといったネガティブな行動パターンを繰り返すことで、子供に悪影響を与える親のことだ。

 はたから見れば、「そんな親なら捨ててしまえばいい」と思えたり、「関係を切ってしまえば解決するのでは」と感じられたりするが、当事者は幼い頃から親によって“自分の在り方”を作り上げられているため、親を見捨てられない。

 こうした心の辛さに悩んでいる方に読んでほしいのが『毒になる親一生苦しむ子供』(スーザン・フォワード (著)/ 玉置 悟 (翻訳)/講談社)だ。本書は累計販売数18万部を突破したベストセラー本で、幼少期に植え付けられた不安や怒り、義務感、罪悪感などといった親の呪縛から逃れるための対処法が記されている。

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 子どもは親から罰を受けると、「自分が悪いから厳しくされる」と思ってしまう。実際、父親からのモラハラを受け続けてきた筆者もそうだった。しかし、毒親たちは子どものことを便利な駒のように感じていることも多く、呪縛は人生に大きな悪影響も与える。だからこそ、親の機嫌を満たすため、“望まれるようないい子”であり続ける必要はない。誰の人生にも、人から大切にされ、愛される権利は平等にある。それを得るためにはまず、本書を通して、自分の心と頭に深く根を張ってしまっているトラウマに気づくことが大切なのだ。

■言葉での攻撃も立派な虐待

 親から暴力やネグレクトを受けたり、アルコール中毒な親の姿を見ていたりすると「自分の親は毒親なのかもしれない」と子ども自身も気づきやすいという。しかし、その一方で目には見えない毒で着実に子どもの心を支配する虐待もある。

 その例として本書内で挙げられているのが「残酷な言葉で傷つける親」だ。言葉による傷は目で見えない分、気づいてもらいにくいが、自尊心や自己肯定感を深く傷つける。からかいや嫌味を含んだ言葉の暴力は一種のユーモアとして見なされることも多いため、当事者以外は深刻だと感じにくい。

 このタイプの毒親は「お前をもっとましな人間にするためだ」や「世の中は厳しいんだ。それに耐えられる人間になれるよう教えているんだ」と、自分を正当化するのも特徴なのだとスーザン氏は語る。

 現に筆者も「そんなことができないと笑われるぞ」や「親だから言ってやるんだ」といった言葉をかけられたことがあり、どれだけ怒鳴られたり無視をされたりしても、自分のためを思って言ってくれているのだと本気で信じていた。

 モラハラという言葉は、近年になってようやく浸透しはじめてきたが、目に見える暴力ではないため、自分が受けている被害がモラハラに当たるのか分からないと思ってしまうこともある。そうした、人に言えない生きづらさを抱えている方こそ、まずは本書で自分の置かれている状況を客観的に見つめ、疑問視できるようになってみてほしい。

■毒親は許さなくてもいい

 親が毒親である場合は、自分らしい人生を生き抜いていくために自分を救う必要がある。そのためには、自分の中にある親への意識を変えてみることが大切なのだそう。しかし、スーザン氏は毒親を許す必要はないのだと提唱している。なぜならば、許すことには落とし穴があるからだ。

 怒りや悲しみを鎮めるためには、相手を許すことで自分の心を納得させるものだが、心の奥の本当の気持ちを無視しながら許した気になっているのであれば、苦しみはますます強くなる。そのため、スーザン氏は最初から「許さなくてはすべてがはじまらない」と思わず、結論的に毒親を許せるようになれたらよいが、必ずしも許さなくてはいけないわけではないのだと語っている。

 また、苦しみの原因を親に背負ってもらうのもよい。例え、親に悪意がなかったとしても、心が深く傷つけられたという事実があるのならば、親の責任を指摘する権利がある。怒りや悲しみは心に封印してしまいがちだが、責任の在りかに気づくことで自分らしく生きるための第一歩が見えてくるのだ。

■最後は親と対決を

 怒りや悲しみといった感情と向き合えた後は、実際に毒親と対決をし、自尊心を回復させていくことがカギとなる。その際は、事前に部屋の中にあるものに向かって気持ちをぶつけるロール・プレイをしてみるのもよい。

 実際にぬいぐるみを親に見立てながら行ってみたが、自分でも気づけなかった心の奥の気持ちを発見でき、涙が止まらなかった。2時間ほどぬいぐるみにむかってひとりで怒り悲しみ続ける姿は、はたから見れば、奇妙なものに見えるかもしれないが、終えた後は怒りを自然に表現してもいいのだという安心感と満足感で心がいっぱいになった。

 どんなに憎い毒親でも、たったひとりの親だからこそ、いきなり直接対決をするのは辛いものだ。だからこそ、気持ちの整理がしたい方はまず、ロール・プレイで自分の心を解放してあげることもよいのではないだろうか。

 血のつながりは簡単には切り離せないものだが、自分らしくない姿を保ち続けていく必要はない。

 私たちは自分の心も行動もすべて、自分の意志で左右していける。本書はそんな幸せな気づきを与え、心の重荷を軽くしてくれるだろう。

文=古川諭香