三十路のオタクが13歳の自分にタイムスリップしたら……諦めていた夢を叶えるため全力で人生をやり直す!
更新日:2018/5/14
誰しも一度は「あの頃に戻りたい」なんて思い出にふけることがあるのではないだろうか。今の経験を持ったまま幼い頃に戻ったら、今よりずっと幸せな人生が手に入るかもしれない。……小説や映画、漫画などジャンルを問わず、タイムスリップものは、昔からずっと私たちに夢を(時に残酷な現実を)与えてきた。
『タイムスリップオタガール』(佐々木陽子/フレックスコミックス)は、そんな私たちの「人生をやり直したい」という願いを、たまたま実現することになった主人公の物語だ。
城之内はとこは、30歳でアルバイトをしながら趣味にお金をつぎ込むオタクの女性である。地方に住むはとこは同人イベントに行くため上京。無事お目当ての戦利品たちを手に入れほくほくして駅のホームに立っていると、後ろからドミノ倒しで人が激突。一番前に立っていた彼女は、そのままホーム下に落下。助けを呼ぶ隙もなく、電車は目前に迫っていた。
死がよぎった瞬間に「死にたくない」よりもまず「遺品整理で押し入れの同人誌の山見られてPCの中も見られるの!?」という不安に焦るあたり、根っからのオタクである。
しかし彼女はなぜか死ななかった。前日にタイムスリップしていたのだ。その後も階段から落下するが、今度は三日前にタイムスリップ。どうやら落ちる高さとタイムスリップで戻る時間は比例しているらしい。そしてとうとう、自転車に乗っているところトラックに激突、一度高く飛ばされて落下したはとこは1996年、自身が13歳の頃にタイムスリップしていた。
1~2巻では、楽天的なはとこがそんなハチャメチャな現実を受け止め、むしろ1996年という時代をオタク的に楽しむ姿が描かれる。仕事はしなくていいし、当時のアニメもリアルタイムで観ることができる。スマホもSNSもお絵かき投稿サイトもないことや、長い時間をかけて買い集めた同人誌が一冊もないということをのぞけば、願ってもない幸せな運命だろう。
13歳の今なら「30歳まで17年もある」という事実に気づいたはとこは、いつの間にか諦めていた“漫画を描く”という夢を、改めて追いかけようと決断する。
多くの人が一度は夢見る“人生のやり直し”。ありえないとはわかりつつも、一心不乱に、そして楽しそうに漫画のことを考えているはとこがちょっと羨ましくなる。
また、はとこは当時はうまく付き合えなかったクラスメイトたちとも積極的に関わるようになる。さすがに中身は30歳である。昔は怖くて仕方なかったいじめっ子たちの発言も、実はボキャブラリーが貧困なだけで取るに足らないことだったと気づく。そして、中身が大人になったはとこにつられるかのように、周囲の反応も少しずつ変わっていくのであった。
最新3巻では、はとこを敵視する長谷川くんとの関係が変化したり、オタク友達との仲がさらに深まったり、新たな登場人物が現れたりと充実した内容だ。
勇気がなくて夢を諦めてしまった人や、オタクであることで周囲から浮いて悩んでいた人、今の自分に納得がいかずに人生をやり直したい人、そんな人々にとっては勇気がもらえる作品だろう。
文=園田菜々