ピース又吉「自分がどう思ったかを大事にして」 “こどもの本”総選挙1位『ざんねんないきもの事典』を選んだ小学生のかわいい理由
更新日:2018/5/7
5月5日のこどもの日、「小学生がえらぶ!“こどもの本”総選挙」が荒川区立図書館「ゆいの森あらかわ」で開催され、12万人の子どもたちが選んだベスト10が発表された。
投票者である子どもプレゼンターが、選ばれた本の著者に表彰状を渡すという微笑ましい表彰式となった。また今回アンバサダーを務めた、芥川賞作家で芸人のピース又吉直樹さんの本にまつわるトークや、子どもたちからの「おしりをださずに笑わせる方法」や「綾部さんとコンビを組んだきっかけ」などの質問に又吉さんが答えるシーンもあり、注目を集めた。
なお、発表されたベスト10の本は下記の通り。
1位 『おもしろい! 進化のふしぎ ざんねんないきもの事典』今泉忠明:監修
2位 『あるかしら書店』ヨシタケシンスケ:著
3位 『りんごかもしれない』ヨシタケシンスケ:作
4位 『おもしろい! 進化のふしぎ 続ざんねんないきもの事典』今泉忠明:監修
5位 『おしりたんてい かいとうVSたんてい』トロル:作・絵
6位 『おしりたんてい いせきからのSOS』トロル:作・絵
7位 『このあと どうしちゃおう』ヨシタケシンスケ:作
8位 『ぼくらの七日間戦争』宗田理:作
9位 『ふしぎ駄菓子屋 銭天堂』廣嶋玲子:作、jyajya:絵
10位 『りゆうがあります』ヨシタケシンスケ:作・絵
4冊もの本が表彰されるという快挙を遂げたのはヨシタケシンスケさん。2013年のデビュー作『りんごかもしれない』から、わずか数年の間に発行された本が次々と子どもたちの心を掴んでいったようです。
■小学生たちがそれぞれの本を選んだ理由は?
第7位の『このあと どうしちゃおう』は、死んだあとにどうなるのかを生きている間に考えてみるお話。この本を選んだプレゼンターから、「3年前に亡くなったひいおじいちゃんが天国で楽しく暮らしていると良いなと思いました」という感想を受け取ったヨシタケさんは、「僕も早くに両親を亡くしたので、もっといろいろ話したかったなと思ったことをきっかけに、生きる、死ぬという難しい話を面白おかしく書きました」と制作の経緯を語り、「小さい頃の本を大人になってから読むと違う感想が持てる。おばあちゃんになってからも読んでくださいね」と子どもたちに投げ掛けた。
発想絵本と呼ばれる第3位の『りんごかもしれない』では、プレゼンターの小学生が実際に身の回りにあるものを使って想像の世界をふくらませて遊んでいることを聞いて、「本を読んでから実際に遊んでみてほしいといつも考えているので、そういう理由でこの本を選んでもらえてうれしい」と受賞の喜びを伝えた。また執筆時は、「どうしたら子どもの頃の自分が喜んでくれるのか。自分のような子はたくさんいるはずだから」と、小さい頃の経験が制作のヒントになっていることを明かした。
いっぽう、「子どもたちが大人に反乱を起こすのがかっこいい!」などの理由で第8位にランクインした『ぼくらの七日間戦争』の著者・宗田理さんは、「30年ほど前に書いた本を今でも読んでいただいていることがありがたい。子どもたちのやりたいことは今でも変わらないのですね」と受賞への想いを語った。宮沢りえさん主演の実写映画でも知られる本作は、現在アニメ化企画が進んでいることも発表されています。
第9位の『ふしぎ駄菓子屋 銭天堂』の著者・廣嶋玲子さんは、「ゾクッとする面白さがあって、話の世界に入ったように感じた」というプレゼンターの言葉を受けて、「面白いことは何も言えませんが、本当にありがとうございました」と控えめながらもにこやかに、感謝の気持ちを口にした。
第5位、第6位に選ばれた「おしりたんてい」シリーズの著者・トロルさんは残念ながら欠席でしたが、代わりに担当編集者が登壇。子どもたちから「物語のなかに入って冒険している気持ちになる」「兄妹でいつも大笑いしています」といった感想を受け、「トロルさんが子どもの頃の体験を思い出しながら書いている本。いつも読者の感想を考えながらドキドキしているので、みなさんの声を聞いて喜んでくれると思います」と著者の気持ちを代弁した。
そして、第1位と第4位で表彰されたのは、今泉忠明さんが監修を手がけた「おもしろい!進化のふしぎ ざんねんないきもの事典」シリーズ。プレゼンターからは「読み始めはウソだと思いました。でも本当だとしたら、大きな図鑑を読まないでいいからラクでいいなと思いました」という興味深い感想も。登壇した今泉さんは「受賞を聞いてびっくりしました」と驚きを隠せない様子で、「子どもの頃はイタズラばっかりして賞をもらったことは一度もない。僕は“ざんねんな子ども”だったんじゃないかな」と本の内容になぞらえたユーモアたっぷりのコメントを述べて、会場の笑いを誘った。また、記者から、本がここまでウケた理由を聞かれると、「『ざんねんないきもの事典』は進化の話をしているのですが、(子どもたちは)おしりやうんちがすきですね。進化の話よりもおしりなのかな~と今回考え直しました」と漏らした。
>12万人の小学生が選んだ“こどもの本”総選挙 1位『ざんねんないきもの事典』今泉忠明さんインタビュー
■『あるかしら書店』『ざんねんないきもの事典』又吉さんの感想
結果発表のあとは、アンバサダーの又吉さんがそれぞれの本の感想を。第2位の『あるかしら書店』については、「僕もかつて子どもだったので、読みながら発想が広がりました。僕が思いつくようなことはすでに書いてあってショックでしたけど…楽しかったです。本を読んだとき、友だちと感想を言い合うのも楽しいですが、自分がその本を読んでどう思ったかも大事にしてほしい」とコメント。第1位の『ざんねんないきもの事典』については、「ざんねんなところは個性でもあるので、嫌いになるというより、むしろ好きになりました。人間に置き換えても、欠点を欠点とするのかユニークな部分とするのか、見方がいろいろありますよね」と、率直な感想を述べた。
■又吉さん、本の再読が好きで「本は線だらけ」
小学生から又吉さんへの質問タイムでは、相方・綾部祐二さんとコンビを組んだ理由について聞かれる一幕も。「自分と全然違うタイプだったから。ただ、根本に同じものをみて楽しめるところがある」とコンビ愛を語り、質問した小学生に「綾部さんが好きなんですか? 昔そんなベストよく着てましたよ」とコメントし会場を沸かせた。
また、自身の読書体験について、「文学を読み始めたのは中学生の頃ですが、本自体は保育所の読み聞かせの頃から好きでした。物語に入っていくタイプで、よく作中人物に話し掛けていました。読んだことに対して反応できるのが本の素晴らしいところ」と話し、さらに、大人になってからは「再読が好きで、読むたびに印象に残った部分に違う色で線を引いていたら、結局すべてに線が引かれた状態に…。それだけ本ってムダなところがない」と話した。作家として、子ども向けの本を執筆する可能性について問われると、「僕の小説は子ども向けではありませんが、小学生から感想をいただくことが多々あります。今まで、子ども向けに書くという視点を持ったことはありませんが、機会があれば書いてみたい」と意欲を示した。
今年がはじめての開催となった「小学生がえらぶ! “こどもの本”総選挙」(ポプラ社主催)。児童向け読み物や絵本、児童文庫のほかに、ノンフィクションやコミックなど、さまざまなジャンルの作品の投票があり、その数は2万点にも及んだという。この総選挙が、子どもたちにとって「本に興味をもつきっかけ」となってくれることを願いたい。
取材・文=吉田有希 撮影=内海裕之
「小学生がえらぶ!“こどもの本”総選挙」
総投票数:128,055票
対象:昨年度小学生だったすべての子どもたち
本の対象:2017年10月までに日本国内で発売されているすべての本、ジャンル不問
投票期間:2017/11/1~2018/2/16
投票場所:全国書店店頭、公式サイト、700カ所におよぶ小学校、公共図書館