なぜ日本人の普段着はダサいのか? 世界に通用するセンスはどう磨く?

文芸・カルチャー

公開日:2018/5/8

『100年の価値をデザインする』(奥山清行/PHP研究所)

 秋田新幹線・スーパーこまちや、フェラーリのエンツォ、マセラティのクアトロポルテなど、数々の名作と呼ばれるデザインを世に送り出してきた工業デザイナー・奥山清行氏をご存じだろうか。日本から海外に飛び出して成功を収めたデザイナーとして有名な人物だ。

 そんな奥山氏が世界に通用する日本人のセンスや仕事論、クリエイティブ力の磨き方などを語る『100年の価値をデザインする』(奥山清行/PHP研究所)を本稿ではご紹介したい。

■「クリエイティブ」を先天的なセンスだと勘違いしていないか?

「クリエイティブ」という言葉を聞いて、スマートな知的労働、独創的な才能といったイメージを抱く方も多いことだろう。しかし著者は、クリエイティブは特別な才能であるという思い込みは間違っていると指摘する。

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クリエイティブなことを可能にするのは、後天的なセンスと、経験から得たスキルである。そのために道具の使い方をマスターし、自在に使いこなし、世の中を大局的に捉えるマクロな視点と課題の細部までを理解するミクロな視点を併せ持つ。そういう人が提案するアイデアが、時としてクリエイティブであると評価されるだけのことだ。

■実は凄い、日本人の「個人力」

 世界を股にかけて活躍する著者は、日本人はクリエイティブな才能を発揮するために突破しなければならない殻を、破れずにもがいている状態だという。そんな日本人は、集団としての“和”という点が優れていると思われがちだが、実は日本人は「団体力」よりも「個人力」が優れているのだと著者は説いている。

(海外でクリエイティブに活躍する日本人を多く見るにつれ)僕は「日本人は本来一匹狼が似合っている。殻を破るためには、団体力よりも個人力を発揮すべきではないか」と確信するに至った。

 本書では、風土や歴史、言語といった背景に基づくさまざまな国のクリエイターに見られる傾向や、長所・短所が著者の経験から語られており、日本人として世界に自分を売り出す際にメリットとなる点についても解説されている。

■なぜ普段着の日本人は格好悪いのか

 日本のデザインには「表と裏」があり、そのうち日本は社会の表側の部分にしかデザインが存在しないと著者は説く。

日本のハレ(表・オフィシャル)は、インテリア雑誌のグラビアのようで、住んでいる人たちのライフスタイルや個性を感じさせるものが何もない。日本の書院造りの座敷のように端正でシンプルであり、乱れたところが微塵もない。冷たくはないが、包まれるような暖かみもない。

 つるしのスーツを着ているような感覚の現代の日本のインテリアと対極に、バロック様式にルーツを持つイタリアのインテリアデザインは、複雑で凝ったものが日常生活の中にも入り込んでいるので奥行きのある統一感を醸し出しているのだという。

 それらをつくり出すデザイナーだけでなく、生活者としての私たちがこの日本のハレとケ(表と裏)の矛盾に気づけば、日本人全体のデザイン力はもっと高まる。さらにはそこから個人力を活かす社会に移行していく可能性もあると著者は説く。

 著者は、自分が世界で評価を得るに至った理由のひとつに「日本人としてのセンス」を活かせたことを挙げている。クリエイティブという概念の正しい意味と、自分自身が育ち学んだ過程で自然と身につけてきた長所をしっかり把握することが、私たちの仕事や活動の質を大きく向上させることにつながっていくのではないだろうか。

文=K(稲)