坂口安吾『堕落論』あらすじ紹介。戦中と戦後の違いから明確になった人間の本性、「生きるということ」

文芸・カルチャー

更新日:2023/7/12

『堕落論(角川文庫)』(坂口安吾/KADOKAWA)

 第二次世界大戦直後の日本社会の倫理観を観察し、戦時中の体験を踏まえながら、これからの人々の生きる指標を示した坂口安吾の代表作。

 日本は戦争に敗れ、かつての特攻隊の勇士の生き残りは闇市で稼ぐことで転落する。健気に夫を見送り、位牌の前で独り亡き夫を想いながら生きていくものとされていた戦争未亡人の女も、やがては他の男に恋をするようになる。人間には一般的に「美しいものを美しいままで終わらせたい」という心情がある。長く生きて堕落するくらいなら美しいまま命を終わらせることに同情が寄せられた。

 著者は空襲時の人々は美しかったと回想する。戦中の東京は泥棒もなく、嘘のような理想郷で、ただ虚しい美しさが咲きあふれていた。しかし、それは人間の真の美しさではなかった。考える必要がなく、人間の心がなかったからだ。ただ無邪気に戦争と遊び戯れていたのだ、と。

 終戦後、日本国民はあらゆる自由を許されたが、同時に自分の不自由さに気付くようになった。生き残った人々は次々と堕落していく。だがしかし、人間は永遠に堕ちぬくこともできないのだ。人間は弱いが、落ちぬくことができるほど苦難に対して鋼鉄のように強くはない。それでも、戦後の人々が救われるためには、生きて、墜ちていくことが必要なのだ。人と同じように、日本もまた墜ちることが必要である。そして堕ちきることによって、自分自身を発見して救われなければならない。

 戦後に新たな価値観を生むために、このように提言した。

文=K(稲)